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沈黙の花  作者: ななせいな
二章 想いの花
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〈2−8〉 黄色いバラ

 悲しきかないつも通り、セレネは花屋で暇を持て余していた。


 まぁ、良いのだ。いつものことだし。と、一応強がってみる。

 余計虚しくなるので、すぐやめる。


 今日の庭弄りも一通り終えているので、本格的にすることがない。

 時刻は昼過ぎ。昼食も先程、食べ終えたばかりだ。今から夕食を作るのは、ちいとばかし早すぎる。


(久しぶりに、お客さんでも来ないかなぁ)


 そんな心の声に応えるかのように、ドアベルがリンリィンと音を立てた。

 入ってきたのは、金髪に濃いブルーの目の男。

 背が高く、がっしりとした体つきだ。年齢は二十を少し過ぎたくらいだろうか。


「いらっしゃいませ」


 男は店内をぐるりと見渡し、セレネを真っ直ぐ見据えて言った。


「恋人に贈る花束を一つ、作ってもらえないだろうか」

「かしこまりました」


 セレネは答え、いくつか尋ねる。


 どんな人に贈りたいか。

 何故、贈りたいのか。

 花束の雰囲気はどんなものが良いか。

 予算はどれくらいか。

 好きな色や、好きな花。


 男は答える。

 長年ずっと想っていた彼女に、告白したいのだと。

 刺繍が好きで、静謐(せいひつ)な美しさを持つ彼女に。


 だが、二人の間には身分差という障壁があった。

 女は貴族の一人娘、男は平民。箱入りで育てられた可愛い娘を、平民の男にやるわけがなかった。


 だから男は、女の両親に約束した。

 必ず騎士となり、王国騎士団に所属すると。そしてその剣で、彼女を一生守り抜きますと。


 騎士は準貴族だ。貴族ではない。

 けれども、平民よりはマシかと思ったのか、女の両親は渋々ながらも承諾してくれた。


 ずっと昔にした約束が、ようやく叶えられるのだと。


(どちらかというと、落ち着いた淡い雰囲気が良いのかな)


 どんな花束にしようか頭の中でイメージしていると、男が控えめに声をかけてきた。


「一つ、聞いてもいいだろうか?」

「はい、何でしょう」

「贈り物に黄色いバラというのは⋯⋯やはり、ダメだろうか」


 黄色いバラ。

 最近どこかで聞いたような。いや、見たのか。


「場合によりますね」


 相手が好きな色が黄色、などという場合は大丈夫だ。

 だが、贈り物にする際には少し、注意しなければいけない。


 黄色いバラの花言葉は、嫉妬や薄らぐ愛なのだ。

 特に恋人関係では、タブーとされやすい花である。


 それを聞いた男は俯き、息を吐くようにして言葉をこぼす。


「やはり、そうか⋯⋯」

「花束に入れることもできますが、どうしましょう?」

「いいや、大丈夫だ。ありがとう」


(⋯⋯あ、そういうことか)


 眉尻を下げて笑う男。


 その時、セレネは黄色いバラをどこで見たか思い出した。

 そして、男が黄色いバラに関してどう思っていたかを。


 セレネは切れた話を保たせるように口を開く。


「黄色いバラって、面白いんですよ。帝国では、花言葉が違うんです」


 嫉妬や薄らぐ愛は、シュタール王国で一般的に知られている花言葉だ。

 だがしかし、帝国で一般的に知られている花言葉は、意味が百八十度違う。


「平和、感謝、幸福――これらが、帝国での黄色いバラの花言葉です。贈り物には、最適になるかと」

「⋯⋯!」


 男は何かに気がついたようで、顔を上げて目を丸くする。セレネの予想は当たっていたようだ。


 それにしても、何故こんな辺鄙(へんぴ)な場所にある花屋に客が来たのか、ようやく腑に落ちた。紹介があったのだ。


 頭の中にどこぞの管理官である青年が出てきたので、頭を振って忘れる。

 思い出したら、ろくなことにならない気がする。何にも巻き込まれず、平和に過ごしたい。


 そうして、花束作りに熱中するうちに、刻々と時間は過ぎていった。




 ◇◆◇




(偶然、ねぇ)


 夕食にカボチャスープを飲みながら、セレネは独りごちる。

 カボチャがホクホクで甘い。湯気が立つほど熱々だからこその美味しさである。


 想う女のために騎士を志し、その夢を果たした男。

 しかもその武勲は、先の異民族討伐の功だという。周りの反対は大きかったとか何とか。


 偶然にしては出来すぎている、と言えなくもない。

 だが、誰かが必然になるように仕向けていたなら、別である。


 例えば、その人物は身分差がありながら、二人が想い合っているのを知っていた。

 二人が結ばれるための条件は、男が騎士となり、王国騎士団に名を連ねること。


 だからその人物は、男が手柄を立てた時、王国騎士団に推薦した。

 周りの反対を押し切ってまで、事を運べるほど発言力と権力が必要だ。


 それができるとしたら――


(まぁ、偶然ってことにしておこう)


 考えるのは、やめておこう。

 たとえその真実を陽の下に晒したとして、誰が幸せになるのだろうか。

 きっと、何も生まない。


 セレネはただの花屋だ。高貴な血をひいているわけでもなんでもない。極々普通の、花屋である。

 花を売って、誰かを笑顔にする仕事。誰かを不幸にする仕事ではない。


 添い遂げたいと思える人が、自分を大事にしてくれる家族がいるのなら、それで十分じゃないか。

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