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 酒を岩口に勧めた切川だったが、返杯されて受けない訳にはいかないから、岩口が差し出した(さかずき)を素直に受け取った。この構図は岩口[石]が切川[鋏]に勝った三竦(さんすく)みが具体的に現れた瞬間となった。切川はその杯を飲み干すと、杯洗の水で軽く洗って岩口に返した。そして、銚子の酒を注ぐと一礼して他の氏子の席前へと移動した。

『こりゃ、身体が持たんぞ…』

 少し酔いが回った岩口の心中である。

「皆さん、祭礼の片づけがありますので、私は、この辺でっ!」

 これ以上、氏子達から酒を勧められては沈没する…と感じた岩口は、サッ! と勢いよく席を立つと、氏子達に一礼して席を立った。元々、下戸(げこ)ではないものの、酒は得手でない岩口にとって、神主のが身が好都合に働いたのである。

 自宅に戻ると、といっても、リホームされた社務所の広間からそう離れてはいないから、フラつく程度で帰還できた。

「戻ったよ…」

 フラつきながら玄関の式台を上がり、もう一段上の上り(かまち)に片足を出したとき、岩口は酔いで危うく(つまづ)きかけた。そこはそれ、新任課長の瞬間の判断力でサッ! と避け、事無きを得た。

「酔ってらっしゃるの?」

 キッチンの入り口で岩口が顔を覗かせると、散らし寿司を食べ終えた悠馬と智花、美登里がテーブル席に座っていた。美登里の投げかけに、見りゃ分かるだろ…とは思えたが、岩口は軽く頷くだけでリビングへと撤収した。

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