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 まだ寒さは残るものの少し春らしくなった二月下旬、上戸町役場の職員間は益々、息苦しさが増していた。こんなことなら人事異動などなければいい…と思える息苦しさである。今年こそ管理職をっ! …と内心で思う職員ほど、どこか動きが尋常ではなかった。係長と課長補佐の間には雲泥の差があり、一般職員には適用されない非適用[非適]という出世の道を目指さなくてもいいのに目指すのである。そこへ行くと岩口の場合、取り分けて管理職になりたい…とも思わなかったのだが、町役場が管理職に上げた経緯があった。この裏には、岩口の持つもう一つの顔である骨太(ほねぶと)神社の宮司という地位があることが影響していたことは否定出来なかった。

「やはり、今年もお世話になりそうです…」

 課長補佐の砂場が小声で岩口に告げたのはそんなある日のことだった。この頃になると岩口は人事異動どころではなく、骨太神社の神事に気を遣う出来事が増えていた。小祭りが二月下旬、神武祭が三月初旬と続き、休む間もなく四月の例大祭の準備と大わらわになるのである。

「内示がなかったんですか?」

「部長の顔を見てますと、どうもそのようでして…」

 商工観光部長の設楽(しだら)は時折り、囲碁の相手をする砂場の囲碁相手でもあった。砂場はアマチュアながら四段の腕を持っていて、設楽に囲碁を 教えていたのである。風鈴、星目、中四目の十七目のハンデ戦から、ここ最近になってようやく中四目が取れた十三目で設楽は指導を受けていた。砂場の父親はプロ棋士で、その次男の砂場は兄とは違い、どういう訳か棋士を本業とすることを嫌い、地味な地方公務員の道を選んだという経緯があった。それでもプロに引けを取らないアマチュアの四段ともなれば、一般人で囲碁を少し齧った程度の者では、とても勝てる相手ではなかった。

「そりゃ、有り難いっ!」

 岩口としては苦手な数値の羅列されたデータを手助けしてくれる部下が残れば大いに助かる訳である。

「僕もやれやれです。新しい課ともなれば、また一から仕事を覚えないといけませんから…」

 砂場は本音を語った。

「ところで、氏子の件は?」

「異動がないようならお願いしようかと…」

「そうですか…。お入りになる場合は、ひと声おかけ下さい…」

 岩口は相変わらず部下に対する話しようではなく敬語で話した。内心は、仕事面で世話になっている負い目の減少だった。気持ちは分かります。^^

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