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岩口、切川、砥石の三人は、昨日と同じように各戸を巡回し、午前分のお札配りの職務を終えた。;霊験あらたかな職務なのである。^^ 三人とも二足の草鞋を履く立派な人物なのである。
「では、いつものところで…」
岩口が午前中の最後のお札を配布し終えたあと、切川と砥石に呟くように小声で言った。昼食は毎年、うどん屋[矢卯尾]でうどんを食べるのが常となっていた。素[かけ]うどんに刻みネギを入れて厳かにすするのである。こうして食べるのも神事の決まりごとのようになっていて、三杯をおかわりして啜るのである。満腹にはなるが、素[かけ]うどんだけでは…と誰もに思える。しかし、これも決まりごとのようになっているのだから仕方がない。ただ、刻み葱だけは、かけ放題で、てんこ盛り、七味とともに出されていた。
うどん屋[矢卯尾]の店内である。煮干し+椎茸+昆布+削り鰹etc.をベースに、酒、味醂、醤油、秘伝の隠し味etc.で味付けされた出汁のいい香りが店内に漂っている。
「切川さん、氏子総代がお宅の世襲になったとお聞きしましたが…」
「そうなんですよ。総代会で一年交代では大変だということで…」
「そうでしたか…。いや、そうして頂くと、私としても神事が運び易くなります」
そう言いながら岩口がズルズル~~っと、うどんを厳かに啜った。
「今後とも宜しくお願い致します」
切川もズルズル~~っと、うどんを厳かに啜り、ペコリと頭を下げた。




