53/56
-53-
お札を配布する・・とは、新しい年の神様をお迎えするということを意味する。神様[紙]が鋏で切られるようなことがあってはならない訳である。岩口に付き従って回る切川はクリニックの院長だから鋏だが、そこはそれ、岩口[石]が切れないようにガードしている格好となる。ただ、そのことを本人達が意識している訳ではないから、表立ってはギクシャクしていない。
「今年はいい天気で、ようございましたな…」
歩きながら紋付、袴姿の切川が、小声で宮司姿の岩口に呟いた。
「そうですな…」
突然、呟かれた岩口は、考えるでなく返した。岩口に従って歩く切川、切川に従って縦一線で歩く砥石の構図である。砥石は普段着だからいつもと意識している風ではないが、岩口と切川は和服姿で身を正しているから、いくらか役を演じている風がなくもなかった。
「砥石さん、重くないですか?」
「いいえ、大丈夫です…」
砥石は当たり前のことを当たり前に返した。
「そうですか、それはよかった…」
何がいいのか?は、口にした岩口にもよく分からなかったが、労{ねぎら}い風ではあった。^^




