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 春の晴天の朝である。雅楽が流れる中、氏子達によって骨太神社の神輿(みこし)渡御(とぎょ)が行われ、神社の鳥居前を進んでいく。その先頭を歩むのは神主装束に身を(やつ)した緊張気味の岩口である。岩口とすれば、何事もなく無事に祭礼の神事か終われば、やれやれ…とひと息ついて寛げる訳だが、この瞬間は(あたか)も借り物の猫のように振舞うしかない訳だ。多くの見物客の面前で無様な失態だけは避けなければならないから緊張感が身体に充満していた。そんな中、見物人に混じり見守る岩口家の姿があった。

「ははは…パパらしくないねっ!」

「そういうことを言うんじゃありませんっ!!」

 美登里に悠馬がガツンッ! と(たしな)められた。悠馬は軽く舌を出して無言となった。神主の岩口と神輿は次第に三人の方へ近づいてきた。

「パパ、頑張れぇ~~っ!!」

 そのとき、三才の智花が素っ頓狂な声を出した。それまで神輿渡御の巡行を見守っていた見物人達の視線が、一瞬にして岩口家の三人に注がれた。美登里としてはこっ()ずかしいこと、この上ない。思わず、見物人の中から後ずさりした。

「パパが恥を掻くでしょ!!」

 強い小声で美登里は智花を窘めた。ただ、その窘めようは悠馬のそれとは違い、幾らか感情的な一面があった。

「だってパパ、恰好いいもん…」

 智花にすれば、自分がそれほど悪いことをしたとは思えないから、ブツブツと不平を呟いた。二人がそんな遣り取りをしていると神輿渡御は、いつの間にか通り過ぎていた。

「何してるの? パパもお神輿も、もう通り過ぎたよ…」

 一人、見物人の最前列で神輿渡御を見ていた悠馬が(いぶか)しげに二人を(うかが)った。

「…」「…」

 悠馬に告げられた二人は、思わず口を(つぐ)んだ。

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