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切川クリニックの切川[手術道具のクーパーやメス=鋏]と岩口[岩=石]、それに骨太神社[神=紙]の三者の間には別の三竦みの構図も展開されていた。
年に二度の予防注射は切川にとっては忙しくなる仕事である。
年の瀬の二十日の午後、宮司姿に身を改めた岩口は、氏子総代の切川と、それを手伝う医療スタッフの砥石を伴って、十数戸の家を徒歩で巡り歩いていた。
「砥石さん、もう慣れましたか?」
お札の入った木箱を袋に入れて肩に担ぐ砥石へ、岩口が歩きながら声をかけた。
「はあ、それはもう…」
「宮司、アノ方は今年もよろしく…」
「ああ、毎年の…」
切川が岩口に言ったアノ方とは、予防注射の随意契約[随契]である。毎年度、切川クリニックが一手に引き受けていた。上戸町には切川クリニックしか存在しなかったのだが、切川はその確認を岩口に依頼していたのだ。岩口の勤める観光物産課と予防注射は何の関連もなかったのだが…。何の関連もない観光物産課長の岩口が、取り分けて便宜を図っていた訳ではない。余談ですが、便宜を図ったり情報を漏らすのは、地方公務員法に抵触します。^^
各戸では、砥石がお札を岩口にお札箱から出して手渡し、岩口は各戸の神棚にお札を置いて祝詞を『ドォ~タラ(ドォノォ)~~コォ~タラァ(コォノォ)~~~』と読み上げる。切川はその間に、各戸からお札代を集めて名簿に集金済みの〇を記すのである。それぞれの分担が決められた訳ではないが、それとなく決められていた。




