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 岩口家の隣に住む切川クリニックの切川修一は、岩口とほぼ同年代の医者である。数年前、都会の大病院を勇退し、父が開業する切川クリニックに引っ越して来たのだった。父の(おさむ)は医者の不養生が祟り、去年、この世からあの世へ旅立たなくてもいいのに旅立ったのである。切川は骨太(ほねぶと)神社の新氏子としての岩口と馴れ初めもあった。

 数日後から始まる祭礼前のお清めの神事が(しめ)やかに行われている昼過ぎの骨太神社である。烏帽子(えぼし)を被り、神主姿に装束(しょうぞく)を改めた岩口が、神主風に少し声を誇張させて祝詞(のりと)を上げている。

「ドォ~タラ(ドォノォ)~~コォ~タラァ(コォノォ)~~~」

 その中に紋付き(はかま)姿の切川も列席していた。今年は亡き父に代わり氏子総代を務めることになったのである。神殿に向かい祝詞を上げ終えた岩口が、これもまた少し動きを誇張させ、宮司風に氏子衆の方向へ百八十度、身を(ひるがえ)すと、両手で持った大麻(おおぬさ)を左右に振って氏子衆を清めた。そして、その動きが終わると、厳かに紋付き袴姿の氏子衆に対し一礼した。

「よう、お参りを…」

 そう厳かに口にした岩口の心の内は、『燈明の中のランプが片方、切れかけてるぞ…。アレ、値段いくらだったかな…』だった。^^

 岩口が、しめやかに拝殿から退出すると、氏子総代の切川が氏子役員の少し前へ進み出て向きを変え、語り始めた。

「ええぇ~、それでは今年の祭礼に向け、準備万端、皆々様、(よろ)しゅ~うお願い申し上げます」

 そう言いながら切川は宮司の岩口を真似て品を作り、深々と一礼した。それに合わせ、居合わせた十数名の氏子衆も総代の切口に対し、一礼した。

 その頃、岩口は神主の装束から背広姿に変身し、やれやれ…と、無事終えた安らぎの息を吐いていた。本来なら[神=紙]は鋏[医者=切川]に弱いのだが、社会的慣習で岩口家[石]を包み込んで神主にした[神=紙]により、三竦(さんすく)みの巡りが崩れた、なんともややこしい話となった。^^

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