-4-
岩口家の隣に住む切川クリニックの切川修一は、岩口とほぼ同年代の医者である。数年前、都会の大病院を勇退し、父が開業する切川クリニックに引っ越して来たのだった。父の修は医者の不養生が祟り、去年、この世からあの世へ旅立たなくてもいいのに旅立ったのである。切川は骨太神社の新氏子としての岩口と馴れ初めもあった。
数日後から始まる祭礼前のお清めの神事が蕭やかに行われている昼過ぎの骨太神社である。烏帽子を被り、神主姿に装束を改めた岩口が、神主風に少し声を誇張させて祝詞を上げている。
「ドォ~タラ(ドォノォ)~~コォ~タラァ(コォノォ)~~~」
その中に紋付き袴姿の切川も列席していた。今年は亡き父に代わり氏子総代を務めることになったのである。神殿に向かい祝詞を上げ終えた岩口が、これもまた少し動きを誇張させ、宮司風に氏子衆の方向へ百八十度、身を翻すと、両手で持った大麻を左右に振って氏子衆を清めた。そして、その動きが終わると、厳かに紋付き袴姿の氏子衆に対し一礼した。
「よう、お参りを…」
そう厳かに口にした岩口の心の内は、『燈明の中のランプが片方、切れかけてるぞ…。アレ、値段いくらだったかな…』だった。^^
岩口が、しめやかに拝殿から退出すると、氏子総代の切川が氏子役員の少し前へ進み出て向きを変え、語り始めた。
「ええぇ~、それでは今年の祭礼に向け、準備万端、皆々様、宜しゅ~うお願い申し上げます」
そう言いながら切川は宮司の岩口を真似て品を作り、深々と一礼した。それに合わせ、居合わせた十数名の氏子衆も総代の切口に対し、一礼した。
その頃、岩口は神主の装束から背広姿に変身し、やれやれ…と、無事終えた安らぎの息を吐いていた。本来なら[神=紙]は鋏[医者=切川]に弱いのだが、社会的慣習で岩口家[石]を包み込んで神主にした[神=紙]により、三竦みの巡りが崩れた、なんともややこしい話となった。^^




