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 片田舎の上戸町役場とはいえ、地方公務員である以上、定められた職員への期末手当及び勤勉手当の年間支給月数4.60ヶ月分という有難い特別な収入があった。そこへ、岩口の場合、神主を務めたという特殊勤務手当が加味され、この年の岩口家としてはホクホク顔の夏となった。楽しみを先に残し、猛暑が去った涼やかな十月、岩口は家族を伴い、白浜温泉への二泊三日の旅に出た。

 特急くろしおの車内である。岩口一家が日頃の憂さを忘れ、行楽気分を楽しんでいる。僅か三日とはいえ、岩口にとっては、天の恵み・・とも思えた。

「トモちゃんのは?」

「はいはい…」

 駅で買った駅弁を悠馬が智花に手渡す。暖かいお茶と幕の内弁当、晴れ渡った空を背景に車窓を流れる移りゆく風景・・なに一つとっても満足できるものばかりだった。

 JR紀勢本線白浜駅に降り立った岩口家の家族一行は、駅から予約した白浜の宿へタクシーで直行した。辺りには日没が早まり、夕暮れが近づいていた。

 チェック・インを済ませ、寛げる和風の部屋へ入室した一行は、大枠のガラス窓に映る黄昏る広々とした太平洋の海に目を奪われた。

「ワァ~~!!」「奇麗っ!!」

 悠馬と智花が海が展望できる大枠のガラス窓に早足で近づき叫ぶ。

「いい眺めだな…」「ええ…」

 岩口と美登里があとに続く。

「何かありましたら、お呼び下さいまし。では、ごゆるりと…」

 湯茶の世話を済ませた着物姿の女仲居が笑顔でインターホンを指さし、戸口に正座し、一礼すると出ていった。

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