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建設部長の野坂に一任された、宮司としての岩口の多忙さは当然、以前より増した。とはいえ、部長に特命された事案だけに、何かにつけて『ああ、次の予定は地鎮祭の件がありますので、砂場さんにお任せします…』などと逃げられる方便にもなり、強ち辛いという状況にもならなかった。
上戸町役場に新しく増設された駐車場の地鎮祭が蕭やかに行われたのはそれから一週間後だった。
「では…」
神主姿に着替えた岩口が、課長とはひと味違った身なり振舞いで、ボソッ! と蕭やかな声を出した。管理職一同は設けられた祭壇後ろにずらりと並び、岩口の所作を見守る。そこはそれ、馴れたもので、岩口がミスをすることもなかった。
「ドォ~タラ(ドォノォ)~~コォ~タラァ(コォノォ)~~~」
祝詞にもいろいろあるらしく、地鎮祭用に書かれた紙の祝詞を祭壇に向かいペラペラと厳かに読み上げた。そして読み終えた岩口は、百八十度、参列者に向かい身を翻し、両手で持った大麻を左右に振って参列者一同を祓い清めた。幾らか自分が管理職より上位に位置している気分がして、岩口のテンションは上昇傾向だった。一同を祓い清めたあと、また百八十度、祭壇に向け身を翻した岩口は、大幣を置いて深々と一礼し、ふたたび参列者の方向へと百八十度、向きを変えた。
「これにて、お務めを終わらせて頂きます…。ご苦労さまでした…」
偉ぶることなく、岩口は余所行きの声で蕭やかに告げ、参列者に向かい一礼した。その声に合わせ参列した管理職達も岩口に向かい一礼し、地鎮祭は滞りなく終了した。
終われば、早着替えではないものの、着替え室で背広ネクタイ姿に変身し、何かあったのか? くらいの気分で岩口は課長席へ戻った。神主の装束は大事に風呂敷に包み、自席の下へ置いた。職員側から見れば、丁度、デスクが神主装束を包んだ風呂敷を隠す形となる。
「課長、ご労様でした…。予定は、このように立てておきましたので、目を通して頂ければ…」
「ご苦労様でした…」
砂場がやる仕事に遺漏のあろうはずがないことは、ここ数ヶ月で岩口には十分、分かっていたから、何の疑問も抱かず砂場が示したファイルを見ずに受け取った。




