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観光物産課に勤務する岩口には、もう一つ、別の顔がある。いつの頃からか? は岩口自身も分からなかったが、先祖から世襲されている神職という社会的な仕事があった。早い話、宮司である。その骨太神社は悠馬が通う上戸小学校のすぐ近くにあり、岩口は宮司と地方公務員という二足の草鞋を履いて日々、奮闘していた。地方公務員だけでもお堅いのに、そこへ神職である宮司を兼ねるとなれば、その堅さは尋常のものではなく、岩のように硬くなる・・としたものだ。^^ いやいやいや…それ以上に、岩口の堅さは完璧なものになっていた。^^ 三竦みの事象に石、紙、鋏というのがあるが、その一つで、岩口[岩=石]は骨太神社{神=紙}に包まれた石のような境遇に置かれていた訳である。^^
「課長、アノ件はこのように進めさせて頂きましたが…」
昼過ぎとなり、課長補佐の砂場正二が岩口のデスクに近づくと、手持ちのファイルから数枚の書類を出してデスクの上へおいた。
「ああ、ご苦労さんです。あとで見ておきます…」
岩口としては、内容を引継いだだけで大まかにしか理解出来ていなかったから、暈してそう返す他はなかった。砂場は軽く一礼すると自分のデスクへと戻った。数枚の書類は打ち並べられた数値ばかりで、岩口にすれば、まったく要領を得ないものばかりだった。
『弱ったな。課長補佐の砂場君に、これはっ? って訊く訳にもいかんからな…』
岩口とすれば、課長の威厳は最低限、保たねばならなかった。そうすれば、書類の内容を理解するもう一つの仕事が自ずと岩口に増えることになる。それでなくても、毎年巡る春季例大祭の準備で大わらわの岩口にとって、疲労感が一層、増した瞬間だった。哀れな岩口さん…という他はない。^^
骨太神社の例大祭は四月十三日から四月十五日までの三日間の巡行で行われていた。
「砂場君、そういうことだから、昼からは休ませてもらいます。あとは宜しくお願いします…」
「はい、分かりました。ご苦労様です…」
岩口が神職を兼ねている事実は、町役場の誰もが知っていたから、砂場は何の苦言も吐かず、快く岩口を送り出した。




