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 祭礼は今年も天候に恵まれ、雨の心配がない巡行となった。毎年のことながら、不測の事態は別としても体調だけは万全で臨まないと具合が悪い。巡幸の途中で便意や尿意を感じても、途中で列を抜けてトイレへ駆け込むなどといったことは出来ない。まあ、トイレは巡行する経路にはなかったから、(いず)れにしても体調不良は具合が悪かった。しかも宮司装束で用を足すというのも様にならず、如何なものか…と思えた。一人のときならともかく、祭礼途中、さらに重工の経路を進んでいる最中ともなれば、これはもう始末が悪いといった程度のものではない。その不測の事態が岩口に起きようとしていた。そんな腹具合などとは当の本人である岩口も夢にも思っていなかった。

 巡行の祭列は事もなく順調に進んでいるように誰の目にも見えた。今年も岩口家の三人が見物している。そして不測の事態が、ついに岩口に忍び寄ってきた。

「パパぁ~~!」

 見物人の最前列にいた悠馬が、賑やかに手を振りながらひと声、叫んだしばらく後である。宮司装束の岩口は一瞬、顔が(ほこ)んだが、そのまま脇目も振らず厳かに宮司役を務め、経路を進んだ。が、そのとき、俄かの腹痛が岩口を襲った。山高帽に紋付羽織袴姿で少し後ろを歩く氏子総代の切川が岩口の異変に気づいた。

「宮司、ど、どうされましたっ!?」

「少し腹痛が…。い、いや、大丈夫です…」

 一端、治まった腹痛に、岩口はそう返した。だが、いささか大丈夫ではなかったのである。二度目の腹痛が岩口を襲ったのは、見物客や岩口家の姿が見えなくなった頃だった。幸い、便意を催さなかったのは不幸中の幸いだった。

「う、うっ!」

 思わず(うずくま)った岩口に切川が駆け寄った。

「だ、大丈夫ですかっ!!」

 岩口の様子を見た切川は、柏手を一つうった。見物人に(まぎ)れ、付かず離れず巡行を見守る切川の助手、砥石に聞こえるようにである。切川クリニックの院長でもある切川は、不測の事態に備えて砥石に巡行のあとを追わせていたのだった。鋏[医学]が石[岩口]を救うという三竦(さんすく)みの構図である。氏子総代だけに流石(さすが)といえば流石ですねっ!^^

 砥石は巡行する祭列に分け入った。当然、岩口の(そば)に、である。

「砥石君、鎮痛剤っ!」

 切川は、どうたら、こうたら(どうの、こうの)という薬名を砥石に告げた。

「はいっ!」

 砥石は肩にかけた薬バッグからその錠剤を取り出し、ペットボトルの水とともに岩口に勧めた。

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