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そうこうして、腹が満ちた宮司姿に白足袋姿の岩口は、雪駄を履くとふたたび社務所へ向かった。
「やあ、宮司! おはようございます…」
社務所にはすでに仮屋番の宮居が居座ったかのように座布団の上で胡坐を掻いて座っていた。態度が大きいとはいっても、座った位置は下座である。
「ああ、おはようございます…」
言葉とは裏腹の宮居の態度の大きさだったが、岩口は気にもせず、座布団が置かれたいつもの位置へ正座して座った。本殿正面の方向の上座である。
「開帳神酒は十時からでしたね。まだ、少し早いか…」
宮居はそう言いながら腕時計を見た。時刻は午前九時[巳の上刻]を過ぎた頃だった。
「担ぎ手のアルバイトさんの方は?」
「ああ、切川さんの話じゃ、例年通り十時半に神社へ集合するよう言い渡してあるそうです…」
「そうですか。以前から気になっておったのですが、雨の日は必要ありませんから分かるんですが、曇った日はどうされてるんですか?」
「曇った日は神輿渡行になるか榊神輿渡行になるか分かりませんから、一応は集まるように言ってあると聞いてますが…」
「なるほど…。渡行が榊の場合は神社で解散してもらうということですか…」
「そのようです…」
宮居はそう言って立つと、沸いた保温ポットの湯で茶を淹れた。




