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102/110

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 さて、次の早朝である。神社境内は卯の刻渡り[午前五時]の賑やかな掛け声が響き始めていた。氏子の若衆とは違い、臨時雇いのアルバイトにとって、朝五時の集合ははさすがに慣れないためか、欠伸(あくび)を掻き掻きのアルバイトが多くいた。毎年のことだから、掛け声が響き渡れば岩口もその辺りの進行はよく分かっているから、始まったな…と思いながら寝室を離れた。宮司が卯の刻渡りで神輿を担ぐことはありません。^^

 日常と違うのは、祭礼日の三ヶ日[宵宮・祭礼日・後宴祭]だけは朝から宮司装束で過ごす神様の(しもべ)となる訳である。町役場の勤務は当然、休暇を取り、課の仕事は全て課長補佐の砂場に任せていた。

「お任せ下さい…」

 砂場のひと言は、いつも安心が出来る重みがあった。

 宮司装束に着替えが終わったとき、昨夜、考えなくてもいいのに考えていた三竦みのが崩れた岩口家の危機打開策はすっかり岩口の脳裏から遠ざかっていた。

『おはようございます…』

 神社の留守を守る仮屋番の宮居が玄関前のチャイムを押し声をかけた。

「ああ、今、開けます…」

 小忙しく朝食を食べ、口をモゴモゴさせながら岩口はドア・ホーンで応答した。威厳がある神職とはいえ、宮司も人の子だからモゴモゴと食べるのである。^^

 玄関へ岩口が下り、玄関戸を開けると、普段着の宮居が、立っていた。二十年ばかり前、氏子の若衆が大勢いたときは、宵宮と祭礼日の仮屋番は別の人物が担当することになっていたが、ここ最近は、若衆会の人員の減少に伴い、宵宮、祭礼日、後宴祭とも同じ人物が務めるように規約が改正されていた。氏子である若衆会の若者が減少する事実は医学[鋏]に神[紙]がチャキチャキと切られた事実を暗に示していた。無論、これの発想は、岩口の被害妄想である。^^ 

「宮司、本日も宜しくお願い致します…」

「いやいや、こちらこそ…」

 紋切り型の挨拶を済ませると、宮居は社務所へ向かった。岩口はモグモグ朝食を食べ終えたあと、少し遅れて幣殿(へいでん)へ向かった。祭礼の祝詞(のりと)を上げるためである。

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