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領主 セリオ・ハイドランジア


「……これが、領主の城の中?」


どこか素朴で、必要以上に飾り立てた様子もない。

けれど城の外観は現世にあったテーマパークの夢の国の城に近くイポメアの街の”シンボル”と呼ぶにふさわしかった。

まず領主の屋敷に城は凄すぎる。


「な? 思ったより地味だろ」


そう言って笑うのは、グレンだった。


案内役のメイドと一緒にセリオ様の所へ向かう。

メイドの名前はユリアというらしい。


壁には過剰な装飾はなく、代わりに街の地図や昔の風景画が丁寧に飾られている。

細やかに磨かれた床と、よく手入れされた観葉植物が並ぶ廊下は、「誰かの客を迎える場所」として必要なだけの美しさを備えていた。


「でもな、城の造りって全部、街から見える角度とか光の入り方まで計算されててさ。夜は窓の灯りが星みたいに見えるんだぜ。」


「なるほどね」


「昔の魔族との戦争で異世界召喚された勇者が当時の領主様と自分の世界にあった城をイメージして建てたらしいよ。」


頷きながらも、目に映るものから視線を外せなかった。

そして、大事な会話をスルーしてしまっていたことに気づかない。


またユリアも何も話さないからとても静かだ。


「じゃ、いよいよ対面のお時間だな」


グレンが一枚の扉の前で立ち止まる。

扉は重厚な木製。けれど不思議と威圧感はない。

むしろ、丁寧に塗られたその木の質感が、温もりを含んでいるように感じられた。


「セリオ様、マーチャント商会のグレン様と付き添いの方がお見えです」


扉の向こうから、低く穏やかな声が響いた。


「入りなさい」


扉がゆっくりと開くと、そこには中年の男が立っていた。

肩幅が広く、たしかに風格がある。

だが、決して近寄りがたい威圧感はなく、どこか優しい。

濃い栗色の髪はきちんと整えられ、深い緑色の瞳がまっすぐに私たちを見つめていた。


「どうぞ」


セリオ様は手招きし、部屋の奥へと案内してくれた。

窓からは優しい午後の日差しが差し込み、花瓶の花が風に揺れる。


案内をしてくれたユリアが紅茶を入れてくれる。

アールグレイ…いい香りがする。


まだ緊張感は抜けない。

だけどこの空間だけは不思議と居心地がよかった。


「長旅ご苦労だったね、グレン」


「いやぁ大変でしたよ。この守護魔石の調達は」


グレンは領主のいいつけでサンダルダの森の遥か向こうにあるレイニール国まで買いに行っていたらしい。


このハイドランジア領は数ヶ月前から魔物が強化し騎士団が討伐しなきゃならないほどで、イポメアの街を守る守護魔石は黒く濁り、その力をほとんど失っていた。


「おい、ロイセルはいるか?守護魔石の交換を頼むよ」


ロイセルと呼ばれた男は、光の扉と共に現れた。まるで空間のひだを裂くように。

鮮やかな魔力の気配をまとったその姿は、どこか人間離れしていて…魔術師、そう直感でわかる。


「貴方何者ですか?」


ロイセルは私に指をさす。

鋭い視線がとても痛い。


「名乗り遅れて申し訳ありません。私はミーシャ・アンベール。ただの旅人です」


「ロイセルさんすまねぇな、こいつは俺のツレなんだ。」


すかさずグレンが説明してくれる。

ありがとうグレン。


「ツレ…ですか。まぁ話は後で聞きましょう。」


ロイセルはセリオから受け取った守護魔石を持ってまた光の扉に消える。

城の最上階にある砂時計型の装置にはめに行ったらしい。


「すまないね、ミーシャ。ロイセルはちょっと人見知りなんだ。許してやってくれ」


「いや、私も名乗っていなかったので…すみません。」


まず、人見知りってよりもロイセルさんは異物を排除するような目で私に話してきた。

やっぱり身元もわからないような人間はここに来るべきではなかったようだ。


改めて私はセリオ様に名乗り、サンダルダの森でグレンに出会った事を話した。

逆にセリオ様は、名前も聞かずに話し始めてしまった事を詫びてくれた。

優しい人なんだな。


「なるほど、明日ルベルム学院で適正試験を受けるんだね」


私は自分の身元の話はできない。転生者なんて口が裂けても言えないのだ。

ルベルム学院の適正試験は簡単に終わるらしい。

筆記試験はなく、全ては水晶に手をかざすだけでいいらしい。


「セリオ様、守護魔石の交換が済みました。黒く濁ったものは神殿で浄化でよろしいでしょうか?」


ロイセルさんが戻り、セリオ様に黒く濁った守護魔石を見せた。

黒く濁ったその守護魔石は何故か私に反応し、私に向かって飛んでくる。


「説明していただけますか、ミーシャさん」


その場にいた全員が私を見る。

わけもない、その黒く濁った守護魔石は濁りもなく綺麗な青色の守護魔石に浄化されたのだから。

それに私にも訳がわからない。

浄化の力なんて、ある意味チート能力で私には無縁のはず。


「グレン、何か知っているなら今話してくれないか」


「ミーシャは多分異世界転生者だと思われます」


場が凍った。

どうしよう、私はとにかく焦る。


え、何でグレンが知ってるの!?


「“夢の国の城”って、普通は出てこねぇ例えだろ? 俺、たまたま前にもそう言った奴を見たことがあってな。そいつはリュクセリアの勇者だ。今は王都セルリオンにいるはずだ。」


私がスルーしてしまった会話にやっと気づく。

そして1年前このセリオ様に謁見していたらしい。

こりゃ、やらかした。


「やはり……そうか」


セリオ様は目を細め、椅子にもたれながらゆっくりと言葉を継いだ。


「ミーシャ、君の話を聞かせてくれないか?」


怒りも驚きも見せず、ただ真剣に「人の話を聞く」姿勢を崩さないその瞳が、不思議と私の緊張をほぐす。


もう話すしかない。

ちょっとロイセルさんは怖いけど、悪い人じゃないと信じて私は話し始める。


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