表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

崩れ落ちた信頼と新たなLicht

*専門用語のためページ下記後書きに記載


『最期も飾れない女に、何も言うとはねぇ、好きに生きろ』



彼のたった1文で、何かが壊れる音がした。



私は七森 美春(ななもり みはる)、27歳のただのホス狂。

昔はホストなんかに興味は無い。

むしろアニメや2.5次元舞台、ライブが好き。

あの日出会った彼によって私の人生は大きく狂わされていくなんて想像もつかなかった。


あ、ちなみにお店では、みーしゃって呼ばれてた。

なんか勇者みたいに、新しい所でいろんな人に声掛けて、相談聞いたり、助けてたから、勇者みーしゃ、だってさ。

誰につけてもらったかは忘れちゃっだけどね。


そんな私を狂わせた張本人の彼。

私が約10ヶ月間支えてきた*永久指名の*担当であり

ネオンぎらつく、不夜城、眠らない街で有名な新宿歌舞伎町にあるホストクラブ【CLUB EYES(クラブ アイズ)】のホスト、リヒトだ。


リヒトは*源氏名。

ドイツ語で〈Licht〉光って意味らしいよ。


性格は、The天上天下唯我独尊。

でも優しくて、時には叱ってくれる、人情溢れる人。

ちょっと寂しがり屋で、恥ずかしがり屋で…

新しいものが好きだけど、飽きやすい、だからやる気も熱し易く冷め易い。


私からしたらホストっぽくない、男の子。

だって出会ったその日に本名伝えるかね。

ちなみに彼の本名は清夏 冴(せいな さえ)

何がそうさせたのかは分からないけど歳も4つ下なのに、凄く考え方は大人。


でも彼の*姫は私だけで*一本釣りだった。

こんなにも魅力があるのに。


だから知りたいと思ったのかなぁ…なんてね。


あ、気になるよね。

なんで冴があの文章を送ってきたか。



それは私が守れなかったから。



冴がホストを辞める最終日。


数日前―


『最期俺に全額ベッドして俺と一緒に引退してくれ、お前に俺を選んで良かったと思ってほしいんだよ』


この文章が届いてから彼の話を聞きながら計画を立てた。

この冴が言ってる〈俺を選んで良かったと思ってほしい〉…んなの当たり前だろう!!


私は貴方を選んで良かったよ。


そんな気持ちも背負いながら当日。

私は仕事を休み、彼の最期のお願いで、まだやった事の無い

*小計50万円、*総売約70万円の*オールコールの準備もしっかりして、またちょっとしたプレゼントも持って会いに行く……はずだった。


私の用意していた金額が口座から消えていたのだ。


「……もしかして、振込ミス? いや今回はそうならない対策をとったはず。じゃあ詐欺? カード盗まれた? あぁ、もう、わからないってば!!」


何故か分からない、何で。頭が焦りで働かない。

一生懸命働いて頑張って、最期飾ってあげたかったのに。


私は冴に待っててとだけ伝えて、お願いが叶えられなくてもそばにいてあげたい、その思いだけに金額を集めることに必死になった。



しかし結果は残酷だった。



最低限の*クイックの金額が集まった時には最終入店時刻を過ぎていた。


会えなかった。


そして冴に渡したかった物も直接渡せず、店長に預けて後日仲のいい*ヘルプである(レイ)から渡してくれたらしい。


『ごめん、最期飾れなくて、そして約束も。』


私はその1文を送ってから不甲斐なさに涙が止まらなかった。

店には入れない、会えない、10月にしたあの約束も守れない。


【冴、あなたの事が全部知りたい】から

【1年間一緒に走る】って言ったのに。


何やってんのよ私。

本当に彼が約束した当時言ってた言葉通りじゃん。


【途中リタイアしてもいいんだぜ】


私、守れなかったんだ。

でも……彼は


【俺の中に知らない俺を見つけるのが楽しいんだ。壁を作って隠して知られたくないはずなのに。お前に壁を壊して欲しいって思ってるの笑っちまうよ】


この言葉は……嬉しかったなぁぁ

ちょっとずつ変化していく彼がとても…


あぁもうダメ。思い出したら心のダムが溢れる。

いやもう崩壊してた。



そうして、すべてが空回りしたまま

閉店後あの文章が送られて来たってわけ。

何も言い返せなかったよ。

もちろん返信なんてしてない。


ああ、終わったんだ。

「後悔なんてしない」

そう思って自分らしく生きてきたはずなのに。

私がしてきた事は何だったんだろう。

葛藤しか無かった。

だから何度も何度も振り出しに戻った。



時間は無情にも私の心を置いたまま流れてく。


ーーーーーーー


冴からそのメッセージが届いてから、2ヶ月が経った。

7/27、それは去年私と彼が出会った日。

1年後の今日はまだ傷は癒えないそんな日だった。


「思い出が痛いっつーの!」


でも世間は数日前からのニュースの話題で盛り上がっていた。


1億2000年に1度の星が流れる日が今日らしい。


私は星もかなり好きだったから、

ここ数日の楽しみでもあった。

でも天気はあいにくの雨。


私は諦めて1本煙草に火をつけた。

ため息しか出ないこの日常に楽しみだった星が…。

うーん、悲しい。


煙草の火を消し、布団に入ろうと電気を消した。

その時、私は何かに導かれるように窓をふと開けて空を見る。


「あれ、雨は…」


空が割れるように、何本も何本も星が尾を引いて流れていく。この世のものとは思えない、光の量。

儚さすら感じる。


「な、なにこれ凄い、綺麗」




その瞬間私の身体は光に包まれてこの世界から消えた。




「はじめまして、迷える羊ちゃんっ♪!」


私の目の前に綺麗な人が現れる。

……っていうか子羊ちゃんじゃないでしょ!


この展開は想像してなかった。

いや無理でしょ、多分目の前にいるの女神様だよね??

まず私の着てる服…大丈夫なの?

パーカー…そしてすっぴん…オワタ

でも私メイクとかあんまり興味ないから、いっか!


ってそんなことを気にしてる場合じゃないね。


「あの…ここどこですか……!?」


*永久指名

1度指名したホストはそのホストが辞める、または移籍するまで指名が変えられない。指名し続けるのがホストクラブのルール。まれに例外もある。


*担当

自分が永久指名しているホストのこと。


*源氏名

ホストやキャバクラなど仕事で使う偽名のこと。


*姫

担当のお客さんのこと。顧客。

お客さんを姫、担当を王子と呼ぶ時もある。


*一本釣り

ホストが1人の姫だけで売上を上げること。

他の姫は作らない。またはいない。


*小計

tax(サービス料金と税金)が入ってないメニュー表に書いてある金額のこと。


*総売

小計にtaxをかけた金額。お支払いする時の値段のこと。


*オールコール

ホストクラブで一定の額以上のシャンパンまたは本数を入れた場合、キャスト従業員全員でシャンパンコールをする事。

額は店によって異なるが、大体小計20万円、50万円、100万円と金額が上がるにつれて盛大さが変わる。


*クイック

1時間1万円で焼酎と割り物が飲み放題になるシステムのこと。


*ヘルプ

担当以外に盛り上げるホストのこと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ