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リヒリアニスの“指輪の返還”

作者: 天野鉄心

 かつて世界が生まれた時。

 その全ては双子であったとされる。

 光と闇、生と死、人間と魔物、男と女、善と悪、愛と憎しみといった具合に、万物は一対ずつ生まれた。

 ゆえにこの世界は『オポシタムジェミナス(似ていない双子たち)』と皮肉られている。


   ※


 ある時。

 リヒリアニスという男がアーリの村を訪れた。


 アーリの村は、『神の御座(おざ)』として崇拝されたウイヤホロス山の(ふもと)にあり、巡礼者の宿場町として(にぎ)わい、簡易の礼拝所があったことから聖地とまで(はや)された。

 しかし百年前に起こった厄災によって、ウイヤホロス山は『魔境』へと変じ、(さび)れて寒村となった。


 その厄災は一組の男女の悲恋が引き起こしたものだ。


 二人は幼い頃から睦まじく、早くから婚姻の誓いを交わしていた。

 しかし娘は神官の子であったから、年頃になると遠くの貴族に(めと)られる話が舞い込んだ。

 方や男の仕事は引き馬の世話係で、地位も財力もない。

 だが二人の誓いは堅く、ウイヤホロス山へと駆け落ちした。

 これに怒った貴族は引き連れていた兵士を山へ向かわせ、翌朝、憔悴(しょうすい)した娘を連れて国へ帰っていった。

 男は行方知れずとなり、その頃から神々(こうごう)しかったウイヤホロス山は禍々(まがまが)しい黒いもやに包まれ、山へ入った者は一人も帰って来なくなった。


 伝承を語って聞かせた老婆は引き止めるつもりで「行くのかい?」と問うた。

 リヒリアニスは躊躇いなく「もちろん」と応じてウイヤホロス山へ足を向けた。


   ※


 山中は黒い靄が陽の光を(さえぎ)り、松明(たいまつ)をかざしても十歩先しか照らさない。

 木々は干からびて黒く、土も消し炭の様に踏み心地悪い音を立て、靄に触れた肌は心なしか痒くて寒気がする。


 松明を五本取り替えた頃。

 頂き付近に祠ほこらを見付けた。

 同時に、祠の傍らにゆらりと蠢うごめく影も目に入った。

 その瞬間に影の一部が鞭のように伸びて襲ってきたが、松明を投げつけてかわし、腰から祝福の光あふれる剣を抜いて構え叫んだ。

「デニー・クラブ! 私の顔を見よ! そしてこの指輪を思い出せ!」

 リヒリアニスが叫ぶと、影は動きを止め、掲げられた指輪を凝視した。

「……フラウスの、子孫、か?」

「孫にあたる」

「……俺の孫、か?」

「祖母の遺言だ。指輪だけでも共に、と」

 リヒリアニスが告げると、影は呪縛を解かれたように霧散し靄に紛れた。

 この後、ウイヤホロス山の靄は徐々に晴れたという。


   ※


 これが双子の兄王ライハリオンの命を受け、世界安寧の闘いに身を投じた、王弟リヒリアニスの最初の任務“指輪の返還”である。

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