いっそ異世界に行けたらこの恋は成就するのだろうか
頭空っぽにして読んでください
許されない恋をしている。
「エルダインさま」
私はあまり自由の効かない身体でのっしのっしと棚を移動していく。
「セイント・リリーさん……」
エルダインさまは100分の1の身体でそっと私を抱きしめてくれる。
「もっと強く抱きしめてくれていいのに」
「俺だってそうしたい。だけど、俺のパーツは君の生地を痛めてしまう」
エルダインさまは身体のあちこちにある装甲を見て悲しげに告げる。
「ごめんなさい。私がぬいぐるみなばかりに……」
「いや、それを言うのなら俺だって、100分の1プラモデルなばかりに……」
私は自分のぽよぽよの身体が恨めしいとばかりに視線を向ける。
女の子向けアニメ『魔法戦乙女セイント・リリー』の主人公セイント・リリー………のデフォルメされたぬいぐるみである。
私が……作られた国ではどんなモノでも大事にされていると魂が宿ると言われていて、いわゆる付喪神と呼ばれる存在だと、友達のひな人形の付喪神に教えてもらった。
本当なら99年掛かるはずだが、私は付喪神として意識を得たぬいぐるみだ。そして、私の想い人は、人気ロボットアニメ『機動騎士エルダイン』の主役が載っているロボットエルダイン………の100分の1プラモデル。
彼もまた99年待たずに付喪神として意識を持ったのだ。
デフォルメされたぬいぐるみとプラモデルの恋。付喪神としてはあってもおかしくない関係だ。
「いつまでも落ち込んでいられないわね」
「ああ、そうだった」
棚に二人(?)並んで互いに今日あったことを語り合う。
「でね。ご主人さまったら私にアジサイを見せてあげると傘を差して外に出て水たまりに転んで泣きだしちゃってね」
「ああ、それでセイント・リリーさんは石鹸の香りがするのだな。いつもは芳香剤の匂いなのに」
そっと匂いを嗅がれていたのかと恥ずかしくなり、少し距離を置くとすぐにエルダインさまは再び距離を詰めてくる。
「無神経なことを言った。ごめん」
「…………もう言わないでね。恥ずかしかったから」
「反省する」
些細なけんかをして、すぐに仲直りをする。
「エルダインさまは今日はどうだったの?」
「いつもと変わらないな。主がレーザーソードを持っているのを銃に交換していたくらいで」
だからいつもより抱き寄せるのが怖かったと外せない銃を見せてくる。
「いつものレーザーソードも素敵だけど、銃も格好いいわよ」
慰めるように伝えると嬉しそうに銃を持っていない手で私に触れてくれる。そんな細やかな時間を楽しんでいると。
「――またそいつとか」
苛立ったような声が床から聞こえて、そこには、デフォルメされた椿の刺繍がされた燕尾服と仮面を着けたぬいぐるみの姿。
「カメリア仮面。また邪魔しに来たのっ!!」
「当然だろう!! アニメ『セイント・リリー』の恋人はピンチの時にさっそうと現れて助けてくれるカメリア仮面と決まっているのにお前はいつもいつもいつもそんなロボットに!!」
「元の作品と付喪神の私は別物よ!! あんただって、頼りになるカメリア仮面のくせにこんなこそこそストーカーみたいに付きまとってきて!!」
「ストーカーだと!!」
「――二人ともいくら夜とはいえ、騒いでいたら主たちにばれるだろう」
エルダインさまが忠告してくれるのでバレて逢瀬を邪魔されてはいけないとすぐに黙るとカメリア仮面は不機嫌そうにぐぐぐと唸って、
「どうせ、すぐに俺のところに帰ってくるのに無意味な行いだったな」
と捨て台詞を吐いてぽすぽすと去って行く。
「ったく。……ごめんなさいエルダインさま」
騒いでしまって、
「いや、良い。だけど、この時間は二人でいられる大事な時間だから俺に集中してほしい」
そっと背中に手を回されてドキドキと胸が高鳴る。ああ、幸せだな。このままずっと居たい。
そのプラスチックの感触を感じつつそんな願いを抱いていた。
「あれ、またルミが悪戯したのか?」
「違うよ~。ルミ知らないもん」
パパさんとルミちゃんがそんなことを話しながら私たちを引き離す。
(エルダインさま~~!!)
(セイント・リリーさん……)
プラスチックに繊維が絡みついていても無情にも引き離される。
(だから言っただろう。どうせ俺の元に帰ってくるんだと)
勝ち誇った顔でカメリア仮面の隣に戻された私にカメリア仮面は告げてくるのを聞きながら。
(ああ、ママさんの最近ハマっている異世界転移が私とエルダインさまに起きれば、同じ世界から召喚されるので幸せになれるのに……)
と出ない涙を流しながら思うのであった。
これのジャンルは恋愛なのかファンタジーなのか……。