訪問
金城優は気取っていた。
どうすれば、陽菜を守ることができるんだ。
あの翔とかいう窃盗犯からどうやったら守れるんだ。
あいつは絶対陽菜に近付けてはいけない。あの男は危険だ。やったら駄目なことを理解していない。
普通は盗んだものをバレたとき謝るのが普通だろ。それなのにだ、それなのに、あいつは謝りもしないし、ましてやへらへらしていた。
そんな奴をおかしい奴と思わない方がいかれている。
僕が絶対に陽菜を守ってやる。
翔視点。
「鞄はどこにあったんですか?」
カレーを食べ終えた志保と翔はショートケーキを食べながら雑談をしていた。
「使われていない教室にありましたよ」
「はぁ、なるほど。でも、本当に翔さんに助けてもらってよかったです! 絶対に私一人じゃ無理だったと思います」
「まぁ! 誰であろうと僕は助けるんで! いつでも困ったら言ってください」
「あ、ありがとう……」
「翔さんてなんでこんなに優しくしてくれるんですか?」
志保はスプーンを置き翔を見つめる。
「僕の長所はきっと優しい所だと思うんですよ。顔だって良くないし、性格だって誇れるほど良くはない。でも、優しいですよ」
自分で言っていることが理解できないが、なんとか伝わっているだろ。多分、伝わってくれ。
「は、はぁ。つまり、翔さんは優しい所が長所だからみんなに優しくしていると?」
「はい。そういうことです」
翔はイチゴをスプーンに乗せ口に運ぶ。
「ところで、志保さん」
「はい?」
「もう、敬語やめませんか?」
「確かに、そうですね」
「敬語になってますよ?」
「あ、すみま……それな」
志保と翔は互いに笑い合う。
楽しそうに互いを見つめないながら。
志保は何か覚悟を決め、口を開いた。
「あの、もし良かったら明後日ご飯行きません? その、礼をしたいので」
「そこまで、気を遣わなくても大丈夫だよ?」
「違うんです。礼というか、その、一緒に食べ……たい的な?」
志保はにこっと笑みを零し、首を傾げる。
「分かった。じゃあ、明後日行きましょ」
「はは……はい」
緊張のあまりか志保は歯切れが悪い中何とか返事をする。
その後2人は雑談を交わし仲を深め合った。
志保は感じたことがない想いに襲われていた。
明日は楽しみだな。
翔と外でご飯を食べられるのは本当に嬉しい。胸の鼓動が止まってはくれない。
誰にでも助けようとする姿がイケメンで、たまに見せる優しさがより魅力的に感じてしまう。
きっと、鞄を隠されていなかったら翔とは出会ってはいなかった。そう考えると鞄を隠されたことは少しだけラッキーだったのかもしれない。
ちなみに鞄の中身を確認したけど、何も盗まれてはいなかった。
家の鍵。スマホ。財布。その他小物系は全て無事だった。多分、盗んだ人たちは鞄を隠すことしか興味がなかったんだろう。
でも、本当に助かった。
翔が居なかったらきっと何もすることができなかったな。
志保は久しぶりの自分のベットに横なり、天井を眺める。
何かを掴むように腕を伸ばす。
久方翔。
名前を聞いただけで胸が高鳴る。
ああ、今の私はどうかしている。恋とか愛とかそんな感情を抱くことはなかった。それなのに、あの翔という人に”恋”をしている。
翔のことを知りたいと思ってしまう。
明日はちゃんと頑張ろう。そう心に決め志保は夢と希望に満ちたまま眠りについた。
翔視点。
時刻は深夜2時。
ソファーに座ったままテレビを眺める。
ピンポーンとインターホンが鳴り響く。
嫌な予感しかしないんだが。
「はぁ」
我慢しようとしてもため息が出てしまう。逃げることができない環境に追い込まれてしまった。
玄関に向かって歩く。重たい足がゆうことを聞いてはくれない。乗り気じゃない体が拒むように逃げていく。でも、足は嫌でも前に進む。
どう対処すべきかを考える。
結論。無理。
翔はゆっくりとドアを開けた。
「やっほー!!」
元気よく、まるで小さな子どものように無邪気に体を揺らしている陽菜が立っていた。