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ハグ

「なんて言った?」

 

「だから、きも。って言ったんだよ」

 

「私が?」

 

「逆にお前以外誰が居るんだ?」

 

「…………」

 

 陽菜は机の上に体を預ける。

 天井を見つめたまま陽菜はそっと腕を伸ばした。

 スカートか短く、何を着ているのかを見えてしまう。だが、そんなことは二人にとってどうでもよかった。


 どうすることもできない怒りをどうにかして発散しようとしている陽菜と、鞄を返してほしい翔。

 陽菜と翔は真逆の心境に居た。

 陽菜はだらっと手を落とす。

 

「……私って性格悪いと思う?」

 

 何か懺悔するように陽菜は目を閉じながら口を開いた。


 何言ってるんだよ? どう考えても悪いだろ。

 翔はまだ茶番が続くのかと内心思いながら、応えた。

 

「ああ。そう思うぞ! てか、黙っていれば可愛いんだから、その性格を表に出すなよ」

 

「はは、何それ? 喧嘩売ってる?」

 

「いや? 本心。可愛いと思う。ただ、その滲み出てる性格を直せば絶対に幸せになれるぞ?」

 

「はー? 私は心に決めた人しか幸せになりませんけど」

 

 

 横になったまま志保は話を続ける。

 

「はぁ。もう鞄返してもらっても?」

 

「まだ、無理―。もう少し話してくれるなら良いよ」

 

 陽菜は翔にはバレないように笑みを零す。

 

「良いよ。じゃあ、何を話すんだ?」

 

「そうねー。翔のタイプは?」

 

「うーん。別にないな。そもそも、女性に興味ないしさ」


「ふーん。また、それか」

 

「じゃあ! 次は私とどうやったら付き合ってくれる?」

 

 なんだ、その質問は? 理解できない。

 

「その可能性はないな。そもそも、本当に付き合うとか興味ない」

 

「へー。でもさ、もし私と付き合ったら楽しいことになるよ?」

 

「楽しいこと?」

 

「そう! 楽しいこと。もっと翔はピンチになる。どう? 楽しいことじゃない?」

 

「はあ。楽しいことがそれ? 全然楽しくないな。てか、もしかして今の僕がピンチだと思ってるの?」

 

 翔は余裕の笑みを浮かべる。

 

「それりゃ、今の状況的に翔はピンチでしょ?」

 

「全然ピンチじゃないが?」

 

「ええ。それは強がり過ぎない?」

 

「いや? 全然」

 

「えーえー。流石だな翔君。流石私が認めただけの存在だ」

 

 なんの評価だよ。

 

「てか、なんでそこまで僕のことが好きなんだ? 普通に優とかの方がイケメンだし性格いいだろ!」

 

「あー。優はなんていうのかな、好きになれないかな。多分優は私のこと好きだと思うけど、私は無理。だって、性格が良い人ってつまらないじゃん」

 

 なるほど。おーい優今すぐ逃げろー。

 

「はー、なんでそこまで歪んでるんだよ? 普通の恋の方が絶対にいいぞ?」

 

「あんたが、それを言うの? 理解できないね」

 

「理解しなくても結構。てか、もういいだろ? そろそろその鞄を返してくれないか」

 

「もーせっかちだな。じゃあ、ハグをしたらいいよ?」

 

 陽菜は机から降り、翔の方に向かって歩く。

 

「さ! ほら、ハグをしたら返してあげるよ? どうする?」

 

 腕をぱっと大きく広げる。

 

「さ! どうするの? 鞄いらないの? ねぇ、応えは決まってるよ……ね♡」

 

 はぁ、ほんと僕という人間は運がない男だ。

 

 何故このような狂人に好かれてしまったのだろうか。不思議でしかない。

 単に告白を断ったのがすべての始まりであるのは確かだ。でも、ここまで狂人だとは誰も分からないだろ。


 今、僕の目の前に居るのは可愛い人でもなく怖い人でもない。

 僕という一人の人間のために何もかもする、いかれた人間だ。


 翔は陽菜に近付く。

 

 そして、

 

「あ! ハグってこんな温もりするんだ!!」

 

 一音ほど上がった声が暗い教室に響く。

 肩まで手をまわした陽菜は小さく優しく呟いた。

 

「絶対に好きにさせるからね。翔」

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