陽菜vsかける
よく犯人は現場に戻ってくると言われている。その真理はどうか分からないが、戻ってくる確率は高いと思っている。
そう考えると犯人を捜すのは簡単な事であった。
そもそも、僕のクラスに犯人が居ると予想した。そして、スマホを一台用意し録音アプリを開いたままにした。
そうすれば犯人同士の会話が聞けると予想した。
その予想は見事にビンゴした。
『ねぇ、本当に鞄は見つからない場所に隠したんだよね?』
『大丈夫だって。本当にバレない所にやったから!』
『それって、確か、あの教室だよね?』
『そうそう』
何名かの女子たちの会話が録音されていた。
そして、彼女たちは汚い話をし始める。
『てかさ、今日の志保見た?』
『ああ。見た! あれ、本当に滑稽だよね? はははは」
『それな~! あいつ美人だと思っているのか分からないけど、本当にブスだからなー』
これが高校生の会話だとは思えない内容を話し続ける。
その幼稚さはどこから来るものなのかは知らない。ただ、そこにあったのは嫉妬という醜い感情などではない。
ただ単に、ストレスの発散と言うべきか。浅はかな考えでしかなかった。
録音を聞き終わった翔はため息を吐く。
ったく、最近の高校生はどうかしてるぜ。怒られるのが怖いのか、やり返されるのが怖いのか分からないが、真正面から向き合おうとはしない。
逃げ道を作って、友達と協力する。そうすることで自分は悪くないと言い聞かせる。
まぁ、もうこいつらは終わったけどな。
まず、多分声的に犯人は二人。
金城真美子・茶色の髪色でクラス人気者高く。女子からの人気者高い。
山田美穂・おとなしい性格だが、いつも真美子と一緒に居て仲が良い。
まぁ、この二人が犯人かな。声的に。
とにかく今は鞄を探すか。てか、あの場所にあるだろう。
歩くこと数分。翔は人気のない場所に来ていた。
学校の一部であるにも関わらずそこは立入り禁止の場所であった。何故、そこが立ち入り禁止かは誰も知りやしない。
ここに隠すとか本当にひねくれてるな。
電気などは通っていなく暗い教室に入る。
すると、そこには。
「あら、こんばんは」
まるで待っていたかのように、東山陽菜が座っていた。
「はぁ、なんでここに?」
「あら、そんな失礼なことを言わなくて大丈夫じゃない? 私は協力するためにここに来たんだから!」
「協力するなら、僕に構わらないでくれよ?」
「それは、無理な事よ! だって、あなたは私の想いを踏みにじったから。で、どうして志保の鞄を探しているのかしら?」
「はぁ。お前に関係ないだろ? とにかく、早くその鞄をくれないか?」
「むーりー。ちゃんと説明しないと返せないよ!! 私も頑張ったんだからハグくらいはないと……ね?」
なんなんだよコイツ。
こういう奴嫌いだわー。なんか自分が正しいと思っているのか分からないが。
「てか、今日の手紙は何なんだよ?」
「うわ、話逸らされた。まぁ、なんていうのかな、あの手紙はお礼の手紙? 的な感じ!!」
陽菜は足をパタパタと動かす。
「なるほどな。じゃあ、嬉しいと思いながら家に持ち帰るわ! てことで鞄をくれ!」
「もー。そんなに志保って子の鞄が大切なの?」
「あのな、志保って子の鞄がどうこうとかの話ではないんだよ。そもそも、誰の鞄であろうと探すし、助ける」
「あらあら、ちょーかっこいいこと言うじゃん。そういうとこが好きなんだよな」
世界で一番嬉しくない愛の言葉を貰いましたよ。
「じゃあ〜! 私も助けて!!」
「無理」
「えーえー。なんで、私も困っているんだよ? 好きな人から愛を踏みにじられ、心が傷つき、泣いた。それで、その子に復讐がしたいんだよなー」
「なんだその暴君は。そもそも、お前は自分のことを世界で一番可愛いとか思っているけどそうでもないぞ? なんていうか、裏があるように感じるし」
そこで、陽菜は目の色を変える。
呆れ、怒り、悲しみ。それら全てを混ぜたような目で真っすぐ翔を見つめる。
「流石に調子に乗ってない?」
「いや? 僕は普通だと思うが?」
「うんん! 普通じゃないよ。本当に大馬鹿だよ! ほんと、ほんとにむかつな!!! なんで、なんでそこまで自分がかっこいと思っているのかな? 主人公だと思っている?」
「てか、そもそも、あんたが私の告白を受け入れてた良かったじゃん。それなのに、私が悪いみたいな言い方をしてさ! もーちょームカつく!!」
あらー、相当怒ってますよこれ。
神様、僕はどうすれば彼女の機嫌が直るのでしょうか? 教えてください。
翔はポケットに手を入れ、真っすぐな目で陽菜を見つめる。視線を上に向け、数秒程考える。
視線を戻す。
やがて目が合う。
「……」
数秒程沈黙が流れる。
そして、
「きも」
翔は笑いながら言った。