陽菜という狂人
「では、先に学校には僕が行くので後から来てください」
翔は志保にそう言い靴を履く。
「はい。私は五分後に家を出ますね」
翔は志保に説明をした。
2人で学校に向おうと考えたが、色々な観点からそれは止めた方がいいと考えた。問題が起こる確率はあまり低いが注意すべきため止めたのだ。
「じゃあ、先に行っときます。それじゃあ学校で!」
まるで、新婚夫婦と言うべきか、2人とも玄関の前に立ち。親しそうに話す。
「はい。行ってらっしゃいませ」
志保は照れくさそうに笑い、手を振る。
そうこうして翔は家を出た。
学校に着いた翔は違和感に気付く。
なるほど、そう来たのか。
こんな幼稚なことを高校生になってもやるのはほんと馬鹿しかいないな。まぁ、でも今のところ僕が窃盗犯に見えるのは仕方がないことだな。
だいたい陽菜の小物が出てきた時点で僕は窃盗犯になることは決まっていたし。まぁ、”今のところ”だがな。
鞄を横に掛け椅子に座る。
中には一枚の紙らしきものが入っていた。それを取り出し書かれた内容を目で追う。
窃盗犯になった翔君へ。
私はあなたのことがずっとずっと好きでした!! でもね♡ なんでか私の想いを踏みにじったよね? 覚えているかな? あの日私が屋上に呼び出して告白したのに君は女には興味ないと言ってましたよね?
その言葉は私を深く深く傷つきました!! ですので、私の心を傷つけた翔君に罰を与えます! どう? 嬉しいでしょ? 自分のことをイケメンと勘違いしているのか分からないけど、普通にキモいよ?
そんな容姿なのに、こんな美人な私の告白を降ったのは相当罪深いです。本当に、本当に罪深いですよ! どれくらい罪深いと言ったら、そうですね。ショートケーキなのにイチゴが乗ってないくらい罪深いです。まぁ、当然の報いだと思うけど辛くなっても我慢してね!
あ、この手紙をみんなに見せても現実は変わりやしないよ? だって翔って友達居ないし! 爆笑爆笑。
てことで、頑張ってねゴミ翔君♡
あらー相当怒ってるなこれ。
ちらっと陽菜の方に視線を向けると、笑みを浮かべていた。
そんな怒られることをやってないと思うけどな~。普通に告白を断っただけなのに悲しい。
ていうか、今はそんなことどうでもいいや。
翔はそのまま机に紙を置き教室を出る。
まずは鞄を探そう。
廊下を歩いていると目の前に志保が歩いていた。2人はそのまま無言で歩き続ける。
学校では話さないようにした。まぁ、僕が窃盗犯になっていることを説明した。すると志保は怒り狂ったがなんとか落ち着いてくれた。
そして、僕と話すということは目立つことになってしまう。だから、学校では距離を置くことにしたのだ。
あ、ちなみに志保とは同じクラスだった。
あんまり人の名を覚えるのは苦手なんだよな。
そんなことを考えながら廊下を歩く。
鞄を捨てるとするなら、限定的な場所になるよな。
スマホとか財布とか入っていたならきっとバレにくい場所に捨てられてしまう。
だとするなら、女子トレイ、屋上、使われていない教室。
この三択だな。
まぁ二択か。さすがに女子トイレに入るのは無理だから屋上に行ってみるか。
結局屋上には何もなかったな。
ポケットに手を入れ廊下を歩く。
すると翔の教室は騒がしくなっていた。
後方の方から教室に入ると、翔の机の周りには人だかりができていた。
「これって」
「こんなの用意するのかよ」
「うわー。ないわ」
「きも」
「ありえなくない?」
「本当にやばいやつなんだな」
翔の机に置かれた異常なことが書かれてある紙に人だかりができていた。
すると、ベストタイミングなのか陽菜は泣き始める。
「こんな、こんなの酷いよ。まるで私が……私が書いたみたいに」
くすくすと泣きながら陽菜を手で顔を押さえる。
クラスの連中は陽菜を慰めながらドアの前に立っている翔に視線を向けた。
ほんと犯人ってバカしかいないんだな。
こうなることは自然と理解していた。
それに紙を机に置きっぱなしにしたのはわざとだしさ、泣いて大事にするのも分かってたし。
「はいはい。じゃあ、授業始まるから退いてくれないか?」
翔はため息を吐きながら自分の席に向かって歩く。
「お前、こんなことしてるのに何平然としてるんだよ?」
すると正義の味方のように優は翔の前に立つ。
「こんなことって? もしかして僕があの紙を書いたと?」
「ああ。お前しか書かないだろあんなの。それに、お前の机にあったんだぞ? どう考えてもお前しかない」
「なるほど。お前って真実はいつも一つだと思ってるタイプ?」
「は? 何言ってるんだよ? 真実とかそんな話してないんだろ。ただ、お前がやっているのは確定しているだけだ」
「はぁ、てか、僕がやった証拠はないだろ? 僕が書いているところを見たか?」
「それなら、家で書くとかあるだろ」
「はいはい。話が通用しないから大丈夫です。そもそも、僕が学校に来て一度も鞄を開けていない。それに紙をポケットに入れているなら折り目が付いているはずだ。それなのに置いてある紙は折り目なんて付いていない。つまりだ、クリアファイルとかに入れたんだよ」
「はぁ? 言ってることが理解できねーよ。てか、言い訳するなよ」
「ったく。これでも理解できないなんて終わってるな」
「お前が悪いのになんでそんな態度してるの? 少しは反省しろよ」
「えーと、なんだっけ。確か優だったよな? お前そこまで言うなら命かけろよ? 僕が犯人だと確信してるけど、もし違ったなら命かけろよ?」
優は顔を緩め呆れた顔を浮かべる。
誰もが異常だと思わす空気が流れる。
「命でもなんでも懸けてやるよ。だがな、もう二度と陽菜には近づくな」
そう言うと優は翔を睨み陽菜の元へ戻って行く。
一人の命貰いました!
翔は笑みを零し。鞄のある場所を予想する。
翔にとって今この状況をどうでもよかった。だって、翔にとってこの状況はピンチでもない、ただいつもと変わらない状況だったからだ。
果たして陽菜たちはいつ気付くのだろうか。この天才の翔という存在を。