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志保と翔

翔と志保は小さなソファーに腰を下ろしていた。

 

 あれから、翔は志保を家に上げ、風呂を入らしご飯を一緒に食べ終え就寝時間となっていた。

 翔はリビングにあるソファーで寝ると言ったのだが、志保は不安なのかまだソファーに腰を下ろしていた。空気を読んだ翔は何も言わないまま志保の隣に腰を下ろした。

 2人とも小さなテレビを眺める。

 

 時刻は深夜2時。テレビはニュースしかやっていない。天気予報を眺めながら隣に居る志保に視線を向ける。

 真っすぐ見つめるように志保はただずっとテレビを眺めていた。

 

「ココア飲みます?」

 

 翔は雰囲気を読み取り、小さな声で呟いた。すると、志保は小さく頷く。

 翔は立ち上がり、ココアの準備をする。

 

 数分程してココアを持ち、志保の方に近寄る。

 

「どうぞ」

 

 志保は両手で優しく受け取り「ありがとうございます」と小さな声で言った。

 

 翔はソファーに腰を下ろし、テレビに視線を向ける。

 

 なんとも言えない雰囲気が流れる。

 沈黙に気まずさなどなく、落ち着いた雰囲気だけがあった。

 志保自身も疲れていた。物を盗まれ、誰かからの恨みを買っている。

 誰にでも優しくしようと頑張っていた志保にとっては起きた出来事は心に深い傷をもたらした。数時間程度でなることなんてない、一生に傷を刻んだのだ。

 でも、雄一の救いができた。

 

 その存在は志保の隣に座っている翔という存在だ。

 落ち着いた雰囲気を匂わす翔は安心できる存在となっていた。決して怒ることや不安にさせることがないと思わすような雰囲気もあり志保は安心していた。

 一方翔は。

 

 明日どうやって鞄を見つけるかだな。

 ココアをすすりながら明日の出来事を考える。

 いくつかの考えを頭の中で出し、起こる確率を計算していく。

 うーん。最悪な可能性もあるんだよな。

 

 例えば、僕の机に志保の鞄があったりとか。

 陽菜たちが何かしているとか。

 

 いろいろなことがあるな。でも、まぁ大丈夫だろ。

 問題なのは、横に座っている志保の心の傷だ。

 

 どんな人かはまだ詳しくは理解できていない。もしかしたら志保が何かをしたのかもしれない。でも、そんな雰囲気は感じ取れない。それに、誰にでも優しくしようと頑張っていたと言っている。

 その言葉は嘘なんてなさそうだし。信じている。だからこそ志保の心の傷が問題なんだよな。

 

 いくらその人が嫌いだからと言って鞄を盗んだりするのは論外だ。よくそんな行動をできるなと思ってしまう。

 気付けば時刻は3時を回ろうとしていた。

 

「もう寝ますか」

 

「はい。そうします。私はここで寝るのでどうか翔君はベットでお眠りください」

 

「ああ。そう言えば。言ってなかったんですけど、僕は家であまり寝ないんですよね」

 

「え? どういうことですか?」

 

「学校で寝ているので」

 

「ふふ」

 

 志保は自然と笑みを零す。

 

 笑顔が素敵じゃんと思いながら翔は立ち上がる。

 

「ですので、ベットを使ってください」

 

「では、お言葉に甘えます」

 

 志保は立ち上がり、ベットのある部屋に向って歩き始める。その背中を目で追いながら翔は小さなテーブルの前にある椅子に腰を下ろした。






 志保視点。

 

 私は今あまり親しくない男子のベットで寝ている。

 昨日今日で起きた出来事は理解できないほど情報量が多い。

 何故私の鞄が盗まれたのか理解できないし、なんでこのベットで寝ようとしているのかも理解できていない。

 でも、体は正直で目を閉じるとすぐに眠りそうになってしまう。

 

 不安などはもうない。

 

 家に来ますか? と言われた時不安しかなかったが今は不安なんてない。それに、今は安心できてしまう。

 あの男、翔は何を考えているかが分からない。でも、分かる。なんとなくわかる。あの人は翔は優しいと。誰にも優しく平等を貫いているように感じる。それに、嫌な顔を一つしないで相談に乗ってくれる。話を聞いてくれる。助けようとしてくれる。それだけで彼を信じる理由はある。

 

 ああ。でもやっぱり何してるんだろう私って。

 

 今日の私は私じゃないな。不安から来る行動をしているのかな。それもと、疲れてしまったからこんなことをしているのかな。

 寝て起きて考えよう。明日のことは明日の自分に任せよう。うん。大丈夫。

 

 辛くない。怖くない。だって私は何もしていないし。

 

 志保は胸の奥から不安が溢れていく。自然と涙を流しシーツを濡らす。

 ああ、やっぱり怖いよ。どうして? 私は何もしていないのに。何もやっていないのに。全員に優しくしようと頑張って来たのに。どうして、どうしてなの?

 誰か、誰か助けてよ。

 

 志保は体を丸くし、怯えるように深く毛布をかぶる。

 こんな世界大っ嫌いだよ。






 志保は眠たい目を擦りながら階段を下りてリビングに向かう。すると、既に起きてる翔は朝食をテーブルに並ばれていた。

 

「あ、おはよう! 志保さん」

 

「えーと。おはよう……ございます」

 

 なんということだろう。本当にこれが朝食? 切られているミカンやイチゴ。ヨーグルト。味噌汁。大きな卵やウインナー。それにお米まで。

 こんな豪華な朝食を私の分まで? なんとお礼をした方がいいんだ。

 

 眠たかった志保はすっかり目を覚ます。

 

「どうしました?」

 

「あ、いえ。そのわざわざありがとうございます」

 

「あー。いえ、別に大丈夫ですよ! それに、ご飯は人数が多いほど楽しいで」

 

 翔は小さな笑みを零し、さぁどうぞという仕草をする。

 

 椅子を引き、腰を下ろす。

 

 志保の目の前に翔は座る。

 

「「いただけきます」」

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