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さようなら志保

試験会場はなんと体育館で行われた。理由は誰も知らない。先生でさえも。

 ただ、一斉に行う必要があった。ということだけは分かる。だが、何故、全校生徒を集めてテストを行っているのだろう。


 体育館に並べられた。椅子、机。生徒たちは指定された椅子に座る。

 

 舞台中央。

 

 久遠生徒会長が全校生徒を見下ろす。生徒会長。絶対的権力者。

 彼女が指定したことは絶対。どんな命令であっても行う必要があるのだ。


 生徒会長・絶対的権力者。

 

 ただ、ここで疑問が浮かぶ。もし、権力という力を負の方向へ使ったら? どんでもないことを命令されたら? もし、権力を振りまわしたら?

 など、力の強さが心配になる。だが、それはないのだ。

 生徒会長に選ばれた時点で生まれ持った天才であり、生まれ持った権力者ということ。それらは、もう先生たちも知っている。


「皆さん。今日は頑張ってください。己の力を示し、己の価値を示すのです」

 

 マイクを持った久遠は生徒たちを見つめる。

 闇なんてない綺麗な瞳。長い髪が風に揺れる。

 

「今から3時間で国数英を解いてもらいます。不正はなし、ただ、バレなければいいです。バレた場合――退学となります」

 

 翔は舞台を見つめる。

 そういうことか。己の力。

 ただ単に自分だけの頭の問題ではない、クラスの内での問題。

 言ってしまえばどれくらい不正使用ともバレなければ処分を受ける必要性はない。

 そして、波乱なテストが幕を開ける。



 翔はペンを持ち、問題用紙を眺める。

 国語。

 数学。

 英語。

 苦手科目はないな。ただ、時間を掛けたくないんだよな。何より、めんどくさい。

 己の価値が決まる。そう考えたらやるしかないか。

 問題用紙を開き、翔はペンを走らせた。



 志保視点。

 

 緊張などではない。不安でもない。

 それなのに、どうして、こんなに怖い感情になっているの。どうして、さっきからペンを持つことができないの。

 分からない。

 

 でも、やらなきゃいけない。このテストは私の価値を示すものなんだ。だから、駄目。ちゃんとやらないと。

 ピコンと大きな通知音が鳴る。

 

 体育館ではペンの走る音しかない、そんな環境で鳴る通知音は全員の耳を突いた。

 ポケットに入っているスマホがポコンポコンと鳴る。

 静かな体育館。

 

 志保の周りに先生が足を踏み込んでいく。

 

「君、スマホを持っているのかい?」

「いえ、持ってないです」

 

 志保の後ろで解いていた人は先生を見つめる。

 Aクラス。

 完璧でいないと駄目な存在。

 快を中心としたクラスで問題が起こると、なると、もちろん快は黙ってはいない。

 ただ、テストであるため快は問題を解いていた。

 

「スマホ。出しなさい」

「いえ、私持って」

「いいから出しなさい。あと、”普通の通知だったら預かっとくだけだから」

 

 なんだ、そうなんだ。

 なら、大丈夫。私はアプリの通知と翔の、翔。

 ざわざわと、胸の中が熱くなる。

 急いで翔に視線を向ける。

 私を見つめていた。その瞳は私を殺す瞳。

 震える手で私はスマホを取り出す。

 

(翔)「第一問・A」



 国語の問題だろうか。そう一言だけ書かれていた。後は、消されていた。鈍器で殴られたかのような痛みが走る。

 うそでしょ。

 

「これは、はぁ、来なさい」

 

 先生は志保を見つめながら冷たい声を出す。

 

「違うんです。私は、その」

「いいから。それにもう、退学だから」

 

 いや、そんなはずない。

 私が退学? 違うでしょ。

 これを送ったのは翔だよ? なんで、翔が退学にならないで私が退学になるの?分からない。

 志保は困惑しながら、翔の方に視線を向ける。

 翔はテストを解いていた。まるで、関係ないかのように真剣な表情でテストを解いてた。


 ああ、いや。そんな、はずがない。

 翔が私を捨てる? 私を利用した?

 

 違う。違う。違う。違う。違う。



 

 あの日の翔はそんな人じゃなかった。


 ――あの日って、いったいいつから。


 あの時の翔は優しかった。


 ――あの時ってどの時?

 

 ああ、ああ、分からない。

 

 志保の中にある理想像が崩れていく。

 初めてデートをした日。ご飯を作った日。助けてもらった日。

 希望を与えてくれた日。

 

 あの時、あの日の翔は嘘だったの? そんな。

 私は何を見ていたの? 私は何を感じていたの?

 どうして、スマホを持っていたの。

 

 ああ、そうだ。

 

 あの日、翔が言っていたんだ。


 

『スマホとか財布とかは鞄とかに入れない方がいいな。いつまた、嫌がらせを受けるか分からないし、それに、僕に連絡できるようにしといてほしい。困ったとき志保を助けられるように』




 あああ。なるほど……ね。

 泣く。怒る。

 そういうのじゃない。

 はははは。そっか、そういうことなんだ。

 冷え切った心は現実を教えてくれる。

 

「恋は盲目……ね」

 

 そう言い残し、志保は退学となった。

 

 何故、志保がここまで翔に夢中になっていたかはまだ先の話である。

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