進む一歩
会議室。
代表者たちは困惑していた。
久方翔という存在に。どことなく来る恐怖、不安が襲う。
でも、翔にとってそんなことはどうでもよかった。演技をすることを止めた翔は第二の作戦を練った。
「トレードをしないか?」
翔は苛立っている快に向かって口を開く。
はぁ、と言わんばかりな顔をした快は苛立ちながらなんとか言葉を紡ぐ。
「トレード?」
「ああ、トレードだ」
「なんで、俺たちAクラスがBクラスとトレードするんだ?」
「それは簡単だよ。Aクラスではお前しか使えるやつがいないからだ」
「言ってる意味が分からねーな。なんで、Bクラスであるお前がAクラスの雰囲気を語ってるんだよ?」
「いや、分かるだろ。お前の隣に座っている若菜がそう言っているよ」
若菜は目を丸くする。突然名前を呼ばれたことで若菜は驚く。
「私は、そんなこと言ってませんよ……」
眼鏡を掛けた若菜は指で眼鏡を戻す。
「Bクラスに来たら、支配はされない。どうする? 来るか?」
「…………」
目を泳がす若菜を見ながら翔は考える。
彼女・若菜は怯えている。快という存在がそうさせているんだ。
きっとAクラスは快を中心として動いているのだろう。でも、リーダーであるにも関わらず快に命を捧げている様子はない。てことは、つまり。
快によって支配されていると考えるのが普通で合理的だ。
「私はAクラスで頑張ります」
「本当に頑張れるのか? 自分の意志で動ける環境なのか?」
翔は若菜を追い込んでいく。いや、追い込んでいるのではない。洗脳を始めているのだ。
救いとなる存在を演じ、それを信じるようにさせる。
そうすることで若菜は翔に頼ろうとする、そう考えた翔は行動した。
「それは」
「そうではないよな。Bクラスに来たら自由な行動ができる。安全も保障しよう」
「でも……Aクラスに行ける保証がないなら、私は」
「3年後Aクラスで卒業できるのは5名。つまり、今Aクラスで卒業できる保証はないんだよ。こっちに来るんだ、Bクラスに」
代表者たちは見つめることしかできない。
口を挟んではいけない。
翔の瞳がそう伝える。
「分かった」
若菜は小さな声で呟き、翔を見つめた。
成功したのだ。駒として人として利用されるのが決定したのだ。
ただ、分かっていなのは若菜だけであった。
他者から見ていれば分かる。翔の言動はおかしく、洗脳をしている言葉と。
すぐに分かるのだが、若菜には分からなかった。
Aクラスという居心地の悪いクラス。快が支配しているクラス。
言えることも意見を出すこともしてはいけないクラス。
そう考えると若菜は移籍するしかない。
Bクラスという安全が保障されているクラスに。
まだ、知ってはいない。翔の天才さに。快より残酷で冷たい翔に。
「おいおい、勝手に話を進めるなよ? てか、トレードなら誰をくれるんだよ?」
悪態を着きがながら快は口を開く。
「こっちから、志保を交換しよう」
「いいだろう」
呆気なく快は承諾した。迷うことなく素直に、その素直さに不快感を覚えるほど。
何故翔は志保をトレードしようと思ったのか。何故、志保がトレード相手となったか、それは翔にしか分からない。
でも、運命は決まっていた。
久方翔。
崩壊の一歩目に踏み込む。そして、何故、志保がトレードとなる存在になっていたか。
何故快がその意見を呑むと分かっていたのか。
遡るには体育館に集まった日。あの日から決まっていた。
果たして翔はどこから考えていたのだろう。あの日からか。
志保という存在は大きな存在となっていた。気が付くと話題性もあり、人気的な存在。
だが、それは志保の対するいじめが話題性を読んだ。
鞄を隠され、暴言を吐かれた。それらのことは全生徒が知っている。
一度広まってしまった噂は独りよがり。
志保の株が上がっていく。
優しさで出来た高校生たちは志保に優しくする。話題性がある人にはすり寄ってくる人は一定数居る。
つまり志保は利用できる存在なのだ。駒として利用できる。話題性がある、つまり、何か行動をしたとき、すぐに噂は広まる。快と翔はその考えに至った。
残酷という言葉では説明はしてはいけない。
最低、ゴミ、そんな言葉で貶すことはしてはいけない。
だって、この二人にとって人を利用することは普通のことである。
これから先起こる問題はどこまで理解していたのだろう。
Aクラスから出る退学者は大きな打撃を与える。
失ってしまった穴を埋める存在は消える。
志保は退学になるまで残り1日。




