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始まりの予感

 その後どうでもいい話を聞きながら、俺たちBクラスは指定された教室に向かった。

 自分の名前が書かれた場所に座り、辺りを見渡す。

 Bクラス。

 どこをとっても普通。

 Aクラスに近い存在であるのは確かではある。だが、ポイント集計で結果が変化するというゼロから始まる戦いの前ではBクラスもゴミであるのだ。

 だが、Bクラスの生徒たちは分かっていなかった。

 Aクラスに近く、Cクラスなどの底辺ではない。そう思っていた。


 翔は指定された席に着き、辺りを見渡す。



 人というのは特徴がある。緊張している時の仕草は人それぞれだ。髪を触ったり、立って歩いたり。

 瞑想したりなど。

 人それぞれの緊張感の無くし方はそれぞれ違う。たが、その違さは時々己をピンチにさせる。

 平然を装うことが難しくなってしまうのだ。まぁ、このような考え方をするのはやはり、翔だけであった。


 クラスの連中を目で追い、それぞれの仕草を見分ける。

 誰も喋らない教室は深海のように暗闇の状態であった。なんとも言えない雰囲気。

 飽和してくれない空気。

 そこで、椎名先生が教室に入ってきた。


「おっは~!! って、みんな顔死んでない??」

 

 どこからくる元気なのか、先生はニコニコしながら生徒たちを見下ろした。先生の笑みはたまに出るえくぼが人気なのだが誰も気になりはしない。

 気になっている暇はないのだ。

 

「もー、こんな時は笑顔! だよ!!」

「ほら! みんな笑うのよ! 大丈夫! 不安とかあるのは知っているよ。でも、不安だけじゃこの先卒業できない」

 

 どよめく教室。

 そこで、もう我慢ができなくなった生徒が声を上げた。

 

「どうして、どうして、僕たちがこんな想いをしないといけないんだ?」

 

 立ち上がった生徒は椎名先生を見つめる。

 不安の瞳。怖い、不安。そう感じさせる瞳。

 呆れたのか椎名先生は「はぁ」とため息を吐く。

 

「そもそも、君たち生徒は頭が良い。というのはもう知っている。だけどね、この学校で一番頭が良い人は誰かと問われたら、応えることができない。だって、みんな学力でしか分からないから」

「みんなにとって、国数英はできて当たり前。テストの点数が高くて当たり前。でしょ? つまり、一番を探したいの。天才の中の天才。つまり!! 本物の天才を探す。これが目的」

 

 首を掻きながら笑みを絶やすことなく説明を終えた。

 なるほど。つまり、この学校で一番を決めるためにこのようなことを行っている。

 

 ――面白い。

 

 翔は静かに椎名先生から視線を下ろした。

 俺は今、わくわくしているのか。俺より頭が良い人は居ないと思っている。いや、絶対にそうだ。

 誰よりも起こる出来事を計算し、誰よりも演技をする。

 

 俺は生まれ持った才能でも、天才でもない。

 

 ”努力”で掴み取った力だ。

 俺より天才が居るのなら、教えてやろうじゃないか。

 生まれ持った天才は所詮出来ただけの天才だということを。

 生まれ持った天才が本物の天才ではなく、掴み取った天才が本物の天才だということを。



「とにかくだ、君たちは頑張るしか道が無いんだ! だから、これからは私たちで頑張ろう!」

 

 励ますように椎名先生は首を傾げ笑みを零した。

 些か納得がいっていない生徒はゆっくりと腰を下ろす。

 納得するしかない。人は知らない環境では生きてはいけない。ただ、適用すれば生きてはいける。

 つまりはそいうことだ。

 椎名先生は場に慣れろと言いたいのだろう。

 いつまでたっても不安のままじゃ、いつか自分を殺すと。成長するんだと。そうヒントを与えたのだ。


 沈黙という文字が天井に流れ始めた頃。

 翔は志保に詰められていた。

 

「ねぇ、どうしてこの人が居るの?」

 

 志保が視線を向けた先に居たのは麻衣であった。Aクラスの代表であった麻衣がBクラスに居ることを不思議に感じた志保は不安のあまり翔に問いていた。

 

「えーと、僕が勧誘したんだ。Bクラスに来た方が卒業できる確率が高いと」

「ふーん。そうなんだ。でも、私も……居るからね? 翔のためなら頑張れるから」

「ああ、ありがとう。僕も……頑張って志保とAクラスに行けるように頑張るよ」

「うん。頑張ろうね!」

 

 短い髪が風によって揺れる。桜の芽が咲くように綺麗な笑みを零す。

 

「うん」

 

 翔もその笑みに答えるように、川辺で落ちている葉っぱのような笑みを零す。

 

「志保―」

 

 志保の友達であるだろう、女子に声をかけられた志保は「バイバイ」と言いながら友達の元へ向って行く。

 背中を目で追っていると僕――違う、俺に麻衣が話しかけて来た。

 

「あんたって、心ないでしょ?」

「いや、あるんだが?」

「ないない。それに、あの志保って子――いや止めとくよ。これ以上詮索すると、翔に退学させられそうだしね」

「――それは、分からないがな」

 

 麻衣は俺のに肩を置く。

 

「翔は、Bクラスをどうするの?」

 

 翔は考えを浮かばすように、目を閉じ。ゆっくりと目を開け口を開いた。

 

「崩壊させる」

「……なるほどね」

「驚かないのか?」

「驚かないよ。てか、ある程度そいうことはしそうだなって思ってたしさ」

「そうか」

「あ、そうだ。私がBクラスに移動したいからさ、私の願いも聞いてほしい」

「?」

 

 俺の肩に置いている麻衣に視線を向ける。

 

「私の彼氏になれ」

 

 恥ずかしげもなく、麻衣は翔を見つめたまま呟いた。

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