じゃあな
陽菜はそのまま、翔の横に立つ。
なんとも言えない空気が教室を沈める。到底理解ができない展開の連続であり、裏切り、反乱の連続であった。
優は魂が抜けたような顔をしながら座り、他の連中は助けを求めるように目を泳がす。
退学者を決めるとかいう話し合いができる雰囲気ではない。そのはずであった。だが、翔は口を開いた。
「別に……退学者を決めよう。てか、もう誰にするかは決まっているんじゃないのか?」
翔の声に生徒たちは体を動かす。
全員は誰が退学になるべきが決まっていた。
それは、鞄を隠した真美子と美穂。2人でしかない。
「俺が言うべきか? 分かるよな」
クラスの連中はその人たちに視線を向けた。
「私は……志保の鞄なんて隠してない! 本当だよ、本当なんだよ」
「そうよ! 私もやってないよ。美穂と普通に話してだけだよ」
見苦しい言い訳を繰り返す2人は居場所を無くしていく。
「今更、言い訳なんて無理だろ? それに録音だってある」
翔は余裕のある表情で二人を見つめる。そのすぐ横に居る陽菜は翔の瞳に惚れていた。目をキラキラと輝かせる陽菜を無視しながら俺は二人に視線を向ける。
「てか、なんで鞄を隠したんだ? 気まぐれにしちゃやってはいけないだろ?」
「だから、私たちは冤罪なんだって! 本当にやってないよ」
誰もが美穂と真美子を犯人と決めつける。いや、実際犯人であるのだが、この状況は翔にしか良い状況でしかなかった。
クラスの連中は気付いていなかった。
冤罪を証明された翔の掌で踊らされていることに。もっと早く気付いていれば退学者は真美子と美穂の2人で解決できはずなのに。
いや、南雲は分かっていたのであろう。
傍観者である南雲は翔の異常さに気付いていた。立場を失っていた翔が今や支配権を握っている。その異常者に気付いていたのだが南雲は下手に口を出さない。
出すべきでないと判断したのだから。
「では、ここまでだ」
話の様子を聞いていた凜先生が口を開いた。
壁に掛けられている時計に目をやる。いつの間にか2時間も経過していた。
「なぁ、陽菜?」
「なぁーに? ダーリン」
「今度デートしてやるから、優に投票しろ」
「えー。デートだけ?」
「これでも、結構なご褒美だろ」
「もー、分かったよ。2回するなら良いよ」
「ああ、良いよ2回で」
「ほんと?」
陽菜と翔は小さな声で話す。
そして、最悪な事件は起きる。
数分程の沈黙の後、凜先生は生徒たちの顔を見つめた。
40人であるクラスが今日で37名となってしまうことはまだ翔以外知らない。
「退学者は3名まで。ただ、一票の投票では無効だ。無駄な争いを生むだけだから」
「2票以上から有効とする」
「では、これよりアンケートを取る」
「紙を配るからな、ちなみに一人一票だけだからな」
「では、アンケート結果を発表するぞ」
「真美子・17票」
「美穂・17票」
「志保・2票」
先生の顔が曇り始める。
たった今真美子と美穂の退学は決定した。
「翔・1票」
たぶん優からの恨みだろうな。
ため息を吐きながら優の方に視線を向ける。優は俺を鋭く見つめていた。
まぁその目つきも今日で見納めか。
じゃあな――優。
「優・3票」




