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冤罪の証明

「まずは、退学者を決める」

 

 凜先生はクラスの様子など関係なく言い続ける。どんよりとした空気が換わろうとはしない。いくら窓を開けていようがクーラーが効いていようが関係ない。

 誰もが全員が頭の中で? と浮かぶ。

 

 それもそうだろう。高校生で理解できる内容ではないからだ。

 退学。悪いことをしたときに受ける罰という認識を持つ高校生にとって、突然の宣言は心臓を速くさせる。

 

「先生。理解ができません! 僕たちが何故退学を?」

 

 声を上げたのはやはり、リーダー的な存在である優であった。

 優は立ちながら凜先生を見つめる。凜は優の視線を真正面から受け、目を閉じた。

 

「お前らは、何故頭が良いのに分からないんだ? 高校のパンフレットにも書いてあっただろ?」

 

「いえ、理解ができません。退学者が出るなど書いていませんでしたよ」

 

「それは、そうだろ。わざわざ良い所を紹介するパンフレットにデメリットを書くと思うか? ああ、それに、ちゃんと書いてあっただろ? %を」

 

 それでも、高校生に理解できない。

 

 理解しようと頑張ろうとも無理で理解しようとはしてくれない。

 それなのに、優は一歩も引かない。

 

「では、何故退学者を出すのでしょうか?」

 

「決まりだ。何カ月に一回か停学者を出すルールなんだよ」

 

 微かに優の目が動く。

 絶対的ルールの壁が存在した。先生でも逆らえることができないルール。ましてや生徒も抗えることができない決まり。そう知ってしまった優は静かに腰を下ろした。

 落ち着くはずがない教室。そんな中、翔と陽菜と南雲は落ち着いていた。

 

 花山南雲。

 

 同じ高校一年生だとは思えない風貌や言葉遣い。どこかのお嬢様のような振る舞い。クラスの誰もが美人だと口走り、誰もがゆうことを聞く。

 絶対的な存在である南雲は小さく笑った。

 

 今、南雲が笑ったのか? ちらりと視線を向ける。

 

 南雲と視線が合ってしまう。

 

 綺麗な瞳だな。まるで俺の心の中まで見透かしているような瞳だ。

 

「では、今日で退学者を決めてもらうため、話し合いを行ってもらう」



 凜先生が言葉をはしてから数分経った教室はいまだに沈黙が流れていた。

 誰かが犠牲になる。そんなの決められることができなかった。できるわけがなかった。思い出なんてない。ただ、見えない関係がそこにあった。ある、はずだった。

 これから球技大会や遠足とか楽しいことが待っているはずだった。青春をするはずだった。だが、それらは犠牲を払わないとできないと知ってしまった。

 

「それなら、それならさ! 翔、お前が退学するべきじゃないのか?」

 

 優は小さな声で呟いた。先ほどの強さなんてない。逃げるように誰かに擦りつけるように呟いた。

 翔はゆっくりと目を開けた。

 

「何故? 僕が?」

「だって! お前は窃盗犯だろ?」

 

 まだ、そんなことを言っているのか? 何故だ、何故こうも優は頭が悪いんだ? どうやってこの日向学園高校に入学してきた?

「証拠は? 直接陽菜に訊いてみろよ?」

 

 優の喉元が動く。

 

「陽菜は、翔に小物を盗まれたんだよね?」

 

 教室は沈黙になる。

 

「…………盗まれてないよ。あれは、私が仕掛けた」

 

 優の問いに反して違う答えが飛び出した。

 優は固まってしまう。

 

「う、嘘だ! 陽菜? 脅されているならちゃんと相談してくれ。僕は僕は陽菜を助けるから」

 

 もし、この状況を例えるなら、悲劇であるだろう。

 悲惨な劇であるのは確かである。だが、もっと悲惨なのはこの状況で退学者1名決まったのだから。しかし、当の本人はそんな考えをしている様子はなかった。

 

「嘘じゃないよ。私が仕掛けた」

 

 陽菜の友達や周りに居る人たちは目を細めた。疑っていた窃盗犯である翔は無実であった。

 簡単に想像はぶち壊されてしまう。犯人像ができていた愚かなクラスの連中は感じたことのない胸の痛みを味わう。

 

「なんで? 何で陽菜が?」

 

「なんていうのかな。翔のことが好きだったから! だからかな」

 

 ニッコリと笑みを零す陽菜は確実に積み上げてきた立場を失った。狂っているという印象だけが生まれる。

 でなければ、こんな陽菜を受け入れることができないであろう。

 そして、優はより焦り始める。犯人と決めつけていた翔が冤罪であった。

 

「でも、じゃあ、あのハグしている写真は?」

 

「ああ、あれは、私からハグしたかな。温もりを感じたくてハグをしたの! でもね、本当は……キスの方が良かったけどね!!」

 

 陽菜は翔の方に視線を寄せた。

 俺は陽菜を見つめる。

 顔は笑っているのに目が笑ってないぞ~。

 すぐさま陽菜は視線を戻し、優を見つめる。

 

「てことで、翔は無実なのです!!!」

 

 拍手をしながら陽菜は立ち上がる。翔の方に歩み寄る。

 机に陽菜は座る。

 陽菜はそっと翔の頭に手を乗せる。

 

「ほら? これならちゃんと証明できてるでしょ?」

 

 クラスの連中はどよめく。志保も同じく戸惑う。

 崩壊の一歩目を進んだクラスは序章に過ぎなかった。

 日向学園史上初の一回目の退学者決めで三名を出す。

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