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動き始める過去

志保視点。

 

 人混みが多い中私は翔を待っていた。


 絶対に早く来過ぎてしまった。待ち合わせ時間は19時なのに、18時に来てしまった。


 どうしよう。

 

 いつもは五分前くらいに来ているのに、どうしてこうも早く来てしまったのよ。

 もー、どうかしてるわ!

 

 ベンチに腰を下ろし、心を落ち着かせる。

 

(落ち着くのよ私。早とちりしちゃだめ。ちゃんとゆっくりアピールをする)

 

 よし、大丈夫。

 なんとか、大丈夫。

 

「あれ~? 志保?」

 

 私は声のする方に視線を向ける。

 そこには、美人というかアイドルのような服を着こなしている陽菜が居た。

 

「えーと、陽菜さん?」

 

 この人が翔に冤罪をかけた人なんだよね。でも、どうしてここに? いや、普通に遊びに来ただけか。

 

「そうそう! うちら同じクラスじゃん!」

 

「えーと、そうだね」

 

「? なんか元気ないねー。どうかした?」

 

 できれば関わりたくないんだよなー。火に油を注ぐみたいに、この人に関わったら私まで燃えてしまう。だから、なるべく距離を置きたい。

 でも、ここで変な行動をすると変に怪しまれる。ここは平然に。

 

「元気バッチしだよ! それと、今は友達を待ってたんだ」

 

「ああ! なるほど! 友達待ってたんだ」

 

「そうそう。でも、早く来過ぎてしまってベンチに座ってたの」

 

「ふふ。志保って案外お茶目なんだ?!」

 

「そんなことないよ! たぶん、緊張してるだけ……」

 

「緊張?」

 

 どんよりと、時が進むのが遅く感じる。車の音がやけに静かに、陽菜の声が志保の耳を突く。

 

「えーと。ほら、一回も遊んだことがない友達だからさ! 緊張するんだよねー! はは」

 

「ふーん。そっか! てっきり翔と遊ぶのかなーって思ってたから安心だな」

 

「…………」

 

 2人はやがて目を合わす。それぞれが目で訴える。

 目を逸らしたのは陽菜であった。

 

「なんて、嘘よ。じゃあ、私は行くから。友達と楽しんでね志保」

 

「うん、またね陽菜」

 

 手を振り合い、陽菜どこかに向かって歩く。背中を目で追いながら考える。

 あの人って裏の顔凄いだろうな。

 

 私の直感がそう言っている。間違いない、あの人はたぶん、いや絶対に危険だ。

 あの瞳は何を考えているのか分からない瞳だった。

 

 正直、今もまだ体が震えている。

 

 ふぅ、落ち着くのよ。



「お待たせ」

 

 数時間後、待ち合わせ時間の5分前に翔は来ていた。とっくに来ていた志保に声をかけながら近寄る。志保は戸惑いながらも一礼する。

 

「いえいえ! 全然一時間前に来てたとかそんなこと言ってませんよ!」

 

「ん?」

 

「っは、いえ! ただ、動画を見てたからその癖であーだこーだ! 的な」

 

 翔は笑みを零す。

 なんていうか、可愛いな。

 

 慌てている様子が心に響く? って言うのかな、分からないけど、一緒に居ると心が落ち着くんだよな。


 まぁ、別に愛とか恋とそんな……感情はないけど。

 

「なるほど? とにかく行きますか」

 

「はい! 行きましょう!!」

 

 志保はニッコリと笑い、翔の横を歩く。

 

「なんか、こうして歩くとデートみたいだな」

 

 翔はいつもと同じように言葉を零す。だが、その言葉を聞いた志保は、

 

「は、はぁ? えーと、は!」

 

「?」

 

 横に居る志保に視線を向ける。頬が熱のように赤く染まっていた。

 

「大丈夫?」

 

「あ、うん! 大丈夫!」

 

 志保は首を横に振り、邪気な考えを振り払う。

 

「今日は確か予約してくれたんだよね?」

 

「はい! お礼を兼ねてめちゃくちゃ評価が高いお店を予約しました」

 

 コホンと言わんばかりな顔を浮かべる。

 

「楽しみ……だな」

 

「翔って、外食とかは?」

 

「しないかな、毎日自炊かな」

 

「なんか、イメージ通りだね」

 

「そう? なら、良かったかな」

 

「え?」

 

「なんていうか、ちゃんと外見の評価もあるんだなって」

 

 うん。僕は間違ったことは言っていない。僕にもそのようなイメージを膨らましてくれる人が居るんだな。


 僕の外見なんかさえない男にしか思われていないと思ってたし。

 

「もちろん! だって、翔は見た目から真面目そうだよ?」

 

「え? 僕が真面目そう?」

 

「うん。その、外見でも真面目そうだし、それに、翔の行動が真面目というか。って、こんな話はしない方が絶対に良いですよね! 今からご飯を食べに行くのに……」

 

 並んで歩く2人。

 

 すると、翔は歩みを止める。

 

 いつの間にか隣に居なくなった翔は探すように志保は後ろ向く。

 

 そこには、

 

「え、えっと」

 

 頬を濡らしている翔が立っていた。

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