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冤罪初日

人生というのは驚きの連続と選択の連続だ。例えばたまたま流れた曲にハマることなんてある。その曲が流れる運命ではなかったらその曲とは出会えてはいない。

 そして、何か小さな選択肢によって交友関係は決まってしまう。

 

 あの時、あの日、声をかけていたら友達になっていたのかもしれない。あの道をあのバスを乗っていれば歩いていれば何かが変わっているのかもしれない。

 そして、この最悪な状況を変えることができたのかもしれない。

 

 僕は間違えた。いや、間違える運命だったのかもしれない。

 

 僕――久方翔ひさかたかけるはピンチという壁にぶつかっていた。いや、ピンチとかいう安い言葉ではない。

 

「君がやったんだね?」

 

 日向学園高校ひなたがくえんこうこうの一年三組の教室では、翔を囲むように人だかりができていた。

 

 そして、声を上げている生徒は――東山陽菜とうやまひなである。

 

 東山陽菜はクラスの中心人物な存在である。それに、可愛く男子からも人気が高い。愛嬌もあり天使的存在だとも言われている。

 だが、そんな彼女は今、怒っているのだ。

 

「あのさ、僕は何もしていないよ」

 

「うんん。君がやったんだよね? 私の私の体育着を盗んだよね? 教科書も、全部」

 

 はぁ、本当に彼女は何を言っているんだ? 僕が体育着を盗んだ? そんなことをするはずがないだろ。

 そもそも、僕は女子なんか興味なんてないし、そんな趣味だってないんだぞ?

 

 翔は顔を色を変え、まっすぐな眼差しで陽菜を見つめる。

 

 天使的存在な陽菜はその目を心から受け取る。慣れているのか、落ち着いているのかは定かではないが、陽菜は余裕のある表情を浮かべていた。

 その表情は翔にしか分からなく、他の生徒たちは陽菜が可哀そうと思うことしかできていなかった。

 

 「証拠はあるのかな?」

 

 「証拠ならあるよ! だって、君さっきの体育遅れて来ていたじゃん」

 

 陽菜は正しいと言わんばかりな表情を浮かべる。

 

 あー、確かに遅れてきたな。

 

 でも、あれは……

 

 「返してよ! 私の体育着、教科書。返してよ」

 

 陽菜は震える声で言う。

 

 陽菜の声色で教室の雰囲気は一変する。誰がどう考えても陽菜が被害者で翔が加害者の状況であった。

 空気が重たくなった教室に翔のため息が漏れる。

 

「ほんとめんどくさ」

 

 出てしまった言葉に笑いそうになってしまう。

 

「え?」

 

 陽菜は戸惑いながらも翔を見つめる。

 

「なんていうか、その、めんどくさい。ほら、どうぞ?」

 

 翔は立ち上がり、探してどうぞという仕草を繰り返す。

 陽菜の横に立っている女子生徒たちはすかさず翔の机の中に手を入れ探し始める。

 

 沈黙が流れる。

 

 すると、翔は机の中を探っている女子生徒の仕草を眺める。

 

 本当にめんどくさい奴しかいないんだな。

 

 数秒程経ち、女子生徒が声を上げる。

 

「こ、これって」

 

 その手には、陽菜がいつも愛用しているシャーペンや消しゴムなど小さな小物を持っていた。

 生徒たちは証拠を発見したと言わんばかりな悲鳴を上げる。

 

「やっぱり、君が……翔君が犯人だったんだ」

 

 陽菜は泣き始める。

 

 まるで、悲劇のヒロインのように。辛い現実に耐え切れず弱音を吐くように。

 その姿は誰がどう見ても可哀想という感情しか浮かばなかった。

 

 ただ、ある一人の男子を除いて。

 

 おお。凄いなこれ。周りの生徒たちを味方につけるためにワザとシャーペンとか小物を入れて、さも僕が盗んだようにする。

 そして、その机の中を探っている女子の仕草をバレないようにするために、他の生徒たちは隠すように立っている。

 

 結構考えてきたんだな。って、何を推理しているんだよ。

 

「えーと。じゃあ、ごめんなさい」

 

 翔は陽菜に向かって頭を下げる。すると、部外者たちはその行動に怒り始める。

 

「ふざけているのか!!」

 

「ありえない」

 

「可哀そう」

 

「きも」

 

「怖い。こんな奴が同じクラスに居たんだ」

 

「陽菜を悲しませるなんて、ほんと死んじゃえば」

 

 感情的になる生徒が多い中、陽菜はそれを応援するように泣き続ける。

 

「めんどくさ」

 

 翔は陽菜に向かって口を開く。

 

 何故こんな運命になってしまったのだろう。いや、決まっていたのかもしれない。

 

 そもそも、陽菜とは……

 

「お前さ、調子乗ってるの? この犯罪者が」

 

 翔の思考を遮るように、陽菜の横に立っている金城優きんじょゆうが声を上げる。

 金城優、身長も高く顔も整っている。それに、イケメン過ぎてファンクラブがあるとかないとか。

 

「いや。調子に乗っているとか以前に、冤罪なんですけど?」

 

 翔は煽るように言う。

 

「はぁ? 冤罪ってあのな、お前の机の中から出てきたんだぞ? こんな証拠があるのに冤罪だと主張するのか?」

 

「まぁ、やってないのはやっていないのでね? そもそも、誰かが入れたとかあるでしょ? 完璧な証拠ではないと思うんですけど?」

 

「そんなことを言っていれば逃げれると思っているのか?」

 

 優は声を上げる。

 

 教室には誰一人翔の味方をしている生徒は誰もいない。

 それもそのはず、誰も信じることなんてしないのだ。するはずがない、証拠が出ていて、泣いている陽菜がより一層被害者を演じている。

 翔は優の言葉を無視し、壁に掛けられている時計を見つめる。

 

 やっべ、バイト遅刻する。

 

 横に掛けられている鞄を持ち、急いで教室を出ようとする。

 

「えーと。バイト遅刻するんでお先に失礼します!! あ、えーと。僕犯罪なんてしてないので! では、また明日」

 

 翔は泣いている陽菜に手を振る。

 

 教室に居る生徒たちは翔の行動に困惑する。誰もが、こいつ馬鹿か? もしかしてやばい奴? やっぱ犯罪者か。など様々な考えを巡らせる。

 こうして、翔は無事冤罪をかけられてしまう。

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