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冒険

作者: 日奈子

冬の童話祭2025企画で、初めて童話の投稿をしました。

よろしければお楽しみください。

「おお……このスキルカードに選ばれるとは……」


光り輝く一枚のカードと、その前に立つ子供の周りでは、大人たちが、ざわざわしていました。


この国では、王様の子供も、親を亡くした子供も、三歳になる年の季節ごとに、神殿で『スキル』の儀式をするのです。


生まれもった得意なことが子供のうちに分かることで、それに合う環境や学びの先生を持つ。

 

そうすることで、この国で働くことができる十歳までに、どんな子供でも自信と技術を持てるというわけです。


そんなスキルは、神殿の儀式の場に並べられたカードの前に立つと、その子供に合うスキルのカードが光るという、わかりやすい形で決まるので「スキルカードに選ばれた」ということが、本人にも、周りにも分かります。


料理のスキルカードに選ばれたら、味覚を育てるために国のレストランの招待券がもらえたり、芸術のスキルカードに選ばれたら、美術館や劇場のチケットがもらえたりとか、国がスキルに合う応援をしてくれるのです。



「わたしのスキル……これはなんですか?」



不思議そうに、そのカードを見る子供から、そんなことを聞かれ、答えてくれたのは、神殿のおじいさんでした。


「これは、『冒険』のスキルですよ。殿下」


「ぼうけん……?」


神殿のおじいさん─神殿長から、そう教えてもらった子供は、この国の王子様でした。

まだ三歳になったばかりで、文字が読めないのもありますが、『冒険』という言葉を知らなかったのです。


「そうです『冒険』のスキルです……このカードは、私のずっとずっと前の神殿長がいた時にしか出ていないので、私も詳しくは調べてみないと分からないのですが、必ず殿下のお役に立つスキルですよ」


「そうなんだ!わかった!」


神殿長の言葉に、よく分からないけど役に立つスキルなのだと嬉しくなった王子様は、にこにことお城へ帰っていきました。



「冒険……のスキルか。うむ、良いスキルに選んでもらったようだな」

「良いスキルをを選んでもらいましたね」


お城に帰った王子様は、王様と王妃様に褒めてもらえて、嬉しくなりました。


なんだか分からないけど、父上と母上からこれだけ褒められるのだから、きっと凄いスキルなのだ!と王子様は思ったのです。


──その夜、王子様が眠った後、神殿長がお城に来て、王様や王妃様と話をしていました。


「……それで、冒険のスキルについて、何か分かったのだろうか?」


「はい、王様。冒険のスキルについて調べましたところ『どんなことにも挑戦する勇気と好奇心』そして『困難を乗り越えて成長する』という二つの特徴があるようです。以前に、この冒険のスキルを持った人は、世界中を旅して、多くの知識と経験を国に持ち帰り、そして……」



「王子、今度は何をしているのだ?」


「はい、父上!今は、この国の建物について調べています。父上の建築のスキルで作られたものもあるのですね!父上は凄いです!」


「王子、何か気になることがありましたか?」


「はい、母上!この国の病院について調べているのです。他の国より、病気の人が少ないのは、母上の医療のスキルも大切な役割をされたのですね。私が元気なのも母上のおかげです!」


スキルの儀式から五年が経ち、八歳になった王子様は、たくさんの本を読み、たくさんの人に話を聞き、あちこちに出かけ、国のことを何でも知りたがるようになっていました。


同じ頃にスキルの儀式をした他の子供たちのところにも出かけ、それぞれのスキルに合う学びをしているところに参加したり、スキルの儀式をした神殿の仕事を経験したり、王子様がすることでは……と、周りが心配することもありましたが、王様や王妃様が「少しのケガなら問題無い」と言っていたので、そっと見守ってくれていました。


そして、国中のあらゆることを知りつくした王子様が十歳になりました。


「父上、母上、お願いがあります」


王子様は、言いました。


「私は、もっと多くのことを知り、経験したいのです。この国の外の世界を見に行くことを許してくれますか?」


その言葉を聞いた王様と王妃様は言いました。


「うむ、そのスキルを持つ王子は、そう言うと思っていたよ。隣の国に、同じ年頃の子供が通う学校があるので、そこで学んできなさい」


「王子が遠くに行くのはさみしくなりますが、たくさんのことを経験してくださいね」


「はい!父上、母上、ありがとうございます!」



そうして、隣の国の学校で学び始めた王子様は、今まで知らなかったことをたくさん見つけました。


自分の国にはあるのに、他の国にはないこと。他の国には当たり前なのに、自分の国ではめずらしいこと。


学校でも、街中でも、王子様はたくさんのことを学びました。


やがて、その国の学校で学び終わり、自分の国に戻る年が近づいてきた時に、王子様は考えました。


「私は、たくさんのことを学んだ。だけど、それが出来るわけではない。何でも出来るようになるにはどうしたらいいんだろう……」


悩んだ王子様は、スキルのことを教えてくれた神殿長に手紙を書きました。


『冒険のスキルを持つ人が、たくさんのことを知り、経験して、それから何をしたのでしょう?私は、自分が何でもできるようで、何もできないのだと思うと、とても怖くなるのです』



隣の国の学校を卒業した王子様は、自分の国に戻ってきました。


たくさんの友達ができた隣の国では、お別れのときに「さみしくなるよ」「遊びに行くね」と言葉をかけてもらいました。


戻ってきた自分の国でも「おかえりなさい!」「元気で帰ってきてくれて良かった!」と、喜んで迎えてもらいました。


その中には、神殿長もいました。

あれから手紙を何度かやり取りをして、すっかり心のモヤモヤが無くなった王子様の顔を見て、神殿長もにこにことしていました。


「父上、母上、ただいま戻りました」


自分の国のお城に帰ってきて、王様と王妃様にあいさつをした王子様は、にこにこと二人に迎えてもらって嬉しくなりました。


十五歳になった王子様は、五年間の学生生活で、たくさんのことを学んできました。


「私が、この国のことを全て知っていたと思っていましたが、隣の国から見たこの国のことは、初めて知ることばかりでした。この国にはないことを知り、それがどのように生み出されたのか、誰によって使われているのかなど、まだまだ知らないことばかりで、五年いても全てを知ることができたかどうか、分かりません……」


王子様は、そう言うと、少し悲しい顔をして、王様と、王妃様を見ました。


「私は、……この国の全てを知っているので、もっと新しいことを知りたいと、隣の国に行きました。……ですが、隣の国に行ったからこそ、この国のことをさらに知ることができました。このことが、私のスキルとどんな関係があるのか……それが分からなくなって、神殿長に相談をしたのです」


王子様の話を、王様も王妃様も静かに聞いてくれました。そして、王子様に、こう聞きました。


「では、その答えを見つけたのか?」


王子様は、しっかりと顔を上げ、王様の目を見て答えました。


「はい。私は冒険のスキルが私の知識や経験を大きく育ててくれた思います」


「ふむ、それは、どのようなことだろうか」


「私がこの国で得た知識は、隣の国から見ると不思議なことや当たり前なことなど、その住む場所によって感じ方が違うこと。大人や子ども、どんな仕事をする人かによっても、感じ方が違うということを知りました」


王子様は、言葉を続けます。


「そのことを知った上で、改めてこの国のことを考えたときに、お互いの考え方の違いから生まれる言い争いや誤解を、私はどちらの言い分も聞きながら、どちらも納得してもらえる答えが出せるのではないかと思いました」


「そうか、では王子。『冒険』のスキルは、その考えをするために役に立ったのだろうか」


そう王様に聞かれた王子様は、自信を持って答えました。


「はい。冒険のスキルは、私があらゆることを経験して、多くの人に話を聞くこと、どんな場所に行くこと、そして、たくさんの失敗をしても前に進むための力となりました。……これは、冒険のスキルを持たない他の人から『どうして王子は、そんなに前に進むことができるのですか?』と聞かれ、分かったことでもあるのです」


「他の人には、王子のように前に進む力がないと?」


「いえ、どのような人にも、その力はあるのです。ただ、冒険のスキルを持たない人は、失敗から立ち直る時間が長くかかったり、他の人からの声かけが多く必要だったりしたのです。私には、それがなぜか分からなかったのですが、これこそが私のスキルの力なのだと、多くの人と知り合うことで分かりました」


「なるほど。では、王子。その冒険のスキルでどのようなことをしたいと思っているのだろうか」


王様が真剣な目で、王子に聞きます。


王子様も、真剣な目で答えました。


「はい。私は、このスキルは、自分のためではなく、誰かのため……この国の、そして持っと大きな世界のために役に立てる人になろうと思います」


王子様は、これからの夢を語りました。


「他の誰よりも多く経験をして、多くの知識を得て、多くの人と知り合って……そして、今の私がいるのです。困ったこと、悲しいこと、それを聞いてどうしたらいいか分からないこともありましたので、これからももっと学び、経験を重ね、それらを解決する力を持つ大人になりたいのです」


王様、そして王妃様は、王子様の言葉をしっかりと聞いていました。


「良い経験や学びをしたようですね、王子。あなたの夢に、私の知識や経験も必要であれば使っても良いのですよ」


王妃様に続いて、王様も王子に話しかけます。


「そうだな、私の知識や経験も、そなたに預けよう……冒険のスキルを持つものだからこそ、なにか良い気づきがあるかもしれないからな」


「母上、父上、ありがとうございます!」


「ほほほ、殿下は見事『冒険』のスキルを我がものになさいましたな」


城の広間の、王様や王妃様の側でずっと話を聞いていた神殿長が、王子様に話しかけました。


「神殿長!ありがとうございます……」


ずっと手紙で相談していた神殿長が、王子様がこの国に戻ってきてから、ようやく話をできるようになって、初めての言葉がそれだったので、王子様は嬉しくなりました。


「さて、王様、王妃様。そろそろ『冒険のスキル』が最初にできたときのことを、殿下に話しても良いでしょうか?」


「ああ、よろしく頼む」

「ええ、お願いするわ」


王様と王妃様は、王子様には内緒の話を神殿長としていたようでした。

手紙のやりとりをしていたのにな……と、王子様は少しさみしくなりましたが、それは口に出さず、神殿長の話が始まるのを待ちました。


「ええ。それでは……」



神殿長が話してくれたのは、冒険のスキルが生まれたときのことでした。


いいえ、冒険のスキルだけではありません。

この国の子どもであれば、誰もが経験したスキルの儀式は、むかしむかし、ある一人の女性が作ったというのです。


この国が、まだ小さな国で少ない人たちでいろいろなことを協力して生活していた頃がありました。


やがて、森を切り開き、畑が広がり、人々が増えていき、小さな国は他の国からも注目されるようになりました。


その時の王様は、まだ若くて、どんどん大きくなる国の勢いと、人々からのたくさんのお願いを聞くだけで、眠れないくらいの忙しい日々に困り果てていました。


そんなある日、他の国から、一人の女性が旅の途中だとやってきたのです。


他の国をたくさん見てきた女性は、お城に招かれて、王様と話をすることになりました。


「あなたは、多くの国を旅して、たくさんのことを知っていると聞いた。この国に足りないことや、こうしたらよくなるだろうということを知っていたら、教えてくれないだろうか?」


王様は、女性にお願いしました。


「王様。それは、……」


女性は、いくつかの足りないことを教え、そして、よくなる方法については、こう言いました。


「この国には、たくさんの人がいて、たくさんの仕事があるのに、楽しそうにしている人が少ないようです。もしかして、仕事がその人に合っていないのではないでしょうか?」


それを聞いた王様は、それが何か問題なのだろうかと考え、女性に聞いてみました。


「問題……と言っていいのか私には分かりませんが、生まれた家や順番などで仕事を決められてしまうより、その人に合う仕事をしている方が楽しく、そして良い仕事ができるのですよ。私も、本当なら国の王女なのですが、旅人でいる方が幸せなのです」


旅の女性は、とある国の王女様だったのてす。

それを聞いて王様は驚きました。

お城に生まれたからには、その国のためにお城で働くことしかできないと思っていたからです。


「それは……あなたの国の王様……あなたのお父様は、旅に出ることを認めてくれたのですね」


「ええ。私の国には、魔法や占いがあり、そこで私は生まれた頃に『王女はこの国の外の世界に行くことで幸せを掴む』と言われたのだと……幼い頃に父上から教えてもらいました。そして、私が外の世界に行くことで、私の国はより豊かになるのだそうです」


私は占いはできないんですけどね、と笑いながら、旅をしてきた王女様は言いました。


王様は、驚きましたし、魔法や占いがあることも知らなかったので、もっとその話を聞きたいと、王女様をお城に招いて、しばらくの間過ごしてもらうことにしました。


やがて、王様と王女様は愛し合うよになり、結婚しました。

王女様の国から、お祝いにかけつけた魔法使いが、王女様のお願いを聞いてつくったのが『その人の得意なことを教えてくれる』という魔法の道具──『スキルカード』だったのです。


そして、王様と結婚した王女様は、この国で『スキルカード』を使ってスキルを確認することを三歳になってからということや、そのあとの応援のことなどを、魔法使いや、王女様の国の人から教えてもらいながら、決めていきました。



「そうやって、スキルカードを作ったのは、この国の王様と結婚した王女様だったのです。ただ、王女様は旅人のスキルを、結婚してからはあまり使うことはありませんでしたので、スキルカードを作るときに、それを『冒険』のスキルカードに変えたのだそうですよ」


「え!それでは、私の冒険のスキルは、私のご先祖様と同じなのですね!」


王子様は驚きました。

王子様の父上の父上の、そのまた父上の……この国が大きくなった頃の王様の王妃様と、王子様のスキルが同じだったからです。


「そうです。そして、その王女様が、旅人のスキルを冒険のスキルにしてから、王子様が初めて選ばれたのです」



「あの……王女様は、どうしてスキルを使わなくなったのでしょうか?」


どうしても気になった王子様が、神殿長に聞きました。


「ああ、全く使わなくなったわけではないのですよ。ただ、それまでの旅の中で、多くの知識や経験を得たので、王様と結婚した後は、それを国のために使っていたので、あまり旅をすることがなくなったのてす。ですが、必要と感じられたときには、王妃様となってからも、あちらこちらに出かけていたので、そういうところが、今、殿下がもつ『冒険』のスキルと同じなのだと思いますよ」


「そうなのですね……わかりました。神殿長ありがとうございます」


「では、王子。冒険のスキルを、この国のため、そして王子自身のために使っておくれ」


「はい!」


王様から、そう言われた王子様の顔には、もう迷いはありませんでした。


他の人のように、分かりやすいスキルではなかった『冒険』のスキルは、小さな何も知らない王子様を、たくさん成長させてくれる大切なスキルでした。


もっと大きくなったら、王様の後を継いで、この国の王様になる王子様は、冒険のスキルがなかったとしても、お城でたくさんのことを学ぶ予定でしたが、それでも足りない知識や経験はあったでしょう。


今の王様は、建築のスキルで、お城や街の建物を丈夫に安全に使えるようにしてくれました。 

今の王妃様は、医療のスキルで、衛生管理を国中に広めたり、薬草のスキルを持つ人や治癒のスキルを持つ人を保護して大切に育てて、治療院をあちこちに建ててくれました。


王子様が王様になる頃には、どんな国になっているのでしょうか。


王様も王妃様も、神殿長も、そして王子様と出会ったたくさんの人達も、王子様のこれからの活躍を楽しみにしているのでした。

『冒険にでかけよう』がテーマの今企画。

王子様にとっての冒険は、他の人にはない『スキル』を活躍させるという形で、成長物語にしてみました。


王子様に生まれたからには……と型にはめられることなく、スキルのお陰もあって多くの知識や経験を得た王子様。そのスキルが生まれたきっかけは……。

と、長いお話になりましたが、お読みいただきありがとうございました。


このお話が『童話』として、子どもたち─小学生くらい──に読んでもらい、たくさんのことにチャレンジしてくれたら嬉しいです。


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いつの間にか、既に敷いてある道を歩くことを選びがちになっている自分に気づくことって、あるかもしれないって思いました。 いつもと違う通りを歩いて学校や会社に向かうということだけでも小さな冒険なのかなー…
2025/02/04 18:57 退会済み
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