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4.

よろしくお願いいたします。


時間経過の説明的な話なので、ナナメにお読みいただいていいかと思います。

好奇心の強いダイアナは社交的で、学院でも交友関係を広げていたが、やはり一番の友人はレスリー=アンだった。

二人の間で催されるお茶会は主にキャンデール家で続いていて、お茶のあと、そのまま晩餐に招待されることもしばしばだった。


娘のレスリー=アンが内気なことを心配していたキャンデール伯爵夫妻は、ダイアナという聡明で社交的な友人を喜び、ダイアナはキャンデール伯爵夫妻にも可愛がられるようになっていった。

晩餐には、キャンデール伯爵夫妻やコンラッドも同席する。

コンラッドの姿と声が聞けるキャンデール家の晩餐は、ダイアナにとって特別な時間だったーーーもちろん、そんなことは態度には出さなかったけれど。


コンラッドは話題が豊富で、レスリー=アンやダイアナにも話の水を向けることがあった。

はじめは自分みたいな年下の意見など…と遠慮していたダイアナも、コンラッドが上手く会話を引き出すので、だんだんと思ったことを率直に口にするようになった。

コンラッドはまた聞き上手でもあり、ダイアナの意見に「それは面白い考えだね」と目を細めて微笑んでくれることもしばしばだった。


ダイアナは、もっとコンラッドと話がしたくて、学院での勉学にもより一層力を入れた。

元々優秀なダイアナは、あっという間に試験の成績も上がり、学年でも五本の指に入るほどとなった。

知識の幅を広げたダイアナとの会話は、コンラッドも心の中で唸るほどとなっていったのだがーーーダイアナがそれを知ることはなかった。



◆◆◆


転機が訪れたのは、レスリー=アンとダイアナが高等部へ進んですぐに、心臓を患っていたキャンデール伯爵が亡くなった時だった。

寝付くことはなかったものの、無理な生活をしないようにしていたキャンデール伯爵フランクは、嫡男のコンラッドにほとんどの仕事を引き継いできた。

あとは妻と共に面倒を見ている、自分の代に所有することとなった鉱山を残すのみとなっていた。

全てを引き継いだら正式に爵位をコンラッドに譲り、妻と二人で養生生活をするつもりにしていたのだ。


しかしそんな矢先、鉱山での取引のために出かけた先で発作を起こし、フランクは呆気なく亡くなってしまった。

苦しまず、妻の腕の中で息を引き取ったのがせめてもの救いだった。


葬儀を済ませたあと、コンラッドは文字通り忙殺されることとなった。

父親から生前に爵位を継ぐ場合は省略できる、いくつかの手続きも全て行わねばならず、まずは伯爵位を引き継ぐための手続きが煩雑を極めた。

王都のタウンハウスに寝泊まりしつつ手続きを進め、家業の海運業は父親の死を理由に量を間引きしつつも旬のものを優先に回していかねばならない。

以前から、語学の才と貿易の手腕を買われて、コンラッドは王宮へ召し出だされることもしばしばだった。

爵位の手続きの間は遠慮したのか、ぱったりと止んでいた王宮への呼び出しも、無事に伯爵位を継いだ途端にまた始まり、自分の執務机にゆっくり坐る時間もままならない。

鉱山に関する業務は、暫くは引き続き母親のエスターが面倒を見ることになったが、彼女は葬儀のあと一度鉱山に戻り、やむを得ない作業以外は業務を停止してウイローワックスに戻ってきた。

コンラッドはフランクの死を悲しむ間もなく、するべきことに追われてしまったが、突然父親を失ったレスリー=アンの衝撃は大きかったからだ。


父親の心臓が弱っているという話を聞いた頃から、レスリー=アンはヘンリーの手を借り、庭園の一角に薬草を植え始めていた。

父親に特に可愛がられていた末娘のレスリー=アンは、少しでも父親の助けになりたいと願っていたのだろう。

彼の主治医に手紙で確認をしながら、滋養に良い薬草を優先的に植えて薬湯として供していたのだ。


葬儀のあと、ダイアナは頻繁にレスリー=アンの様子を見にキャンデール家を訪れた。

学院を休んで悲嘆に暮れるレスリー=アンに、母親のエスターが寄り添い、騎士をしている次兄のブルースも妹を気にかけ、頻繁に様子を見に来ていた。

ダイアナも学院の様子を話したり、授業の内容を判り易くまとめたノートを渡したり、教師たちからの伝言を伝えたりと、学院との橋渡しを甲斐甲斐しく行っていた。

それが自分に今できること、一番友人の役に立てることだと思ったからだった。

しばらくすると、弱々しいながらも笑顔を見せるようになったレスリー=アンに、ダイアナは心からほっとしたものだ。

この時期によく顔を合わせるようになったブルースとは、打ち解けた会話を交わすようになっていた。



◆◆◆


だからその日、屋敷の窓辺にコンラッドの姿を認めた時は、ダイアナの胸は喜びではち切れそうになった。

庭園を見渡せるテラスで、以前と同じようにレスリー=アンとお茶を飲んでいた時に、ふと目を上げて屋敷の方に視線を向けると、コンラッドの整った横顔が目に入ってきたのだ。

遠目ではあったが、久しぶりに見るコンラッドの姿に、ダイアナの目は釘付けになった。

レスリー=アンは屋敷を背にしていてそれに気が付かず、また何かに気を取られてダイアナの方を見ていなかった。

彼女の視線はダイアナの体の向いている方向、彼女の右手に向けられ、遠くから近づいてくる人物を見つめていた。


ダイアナはちらりとレスリー=アンの様子を確認し、視線をまたコンラッドの居た窓辺に向けた。

しかし、コンラッドは一人ではなかったようだ。

金色の髪の女性がコンラッドの頬に手を置き、ごく近い距離で彼の顔を見上げていた。

コンラッドもその女性にされるがまま、優しく微笑んで彼女を見つめている。


衝撃がダイアナを襲い、彼女は反射的に目を逸らした。

心臓が変な音を立てているのに、身体は固く冷えていくようだ……。

もう見たくない気持ちがありながら、それでもどうしても気になって、ダイアナはもう一度同じ窓を見上げた。

しかしその時にはもう、窓辺からは人影が消えていた。

彼女は込み上げそうになる涙を必死に押し戻す。


「ヘンリー」


横から、レスリー=アンの声が聞こえた。


「お嬢さま、お邪魔をして申し訳ありません。ウルティカの苗が届きましたんで。早くお知らせした方がいいかと、お邪魔を承知で参りました」


にこにことレスリー=アンに笑いかける老人は、この家の庭師長だということはダイアナも知っていた。

レスリー=アンは、以前にも増して薬草園に力を注ぐようになっていたからだ。


「レスリー様」


自分のものとも思えない声が、レスリーに話しかける。

ダイアナは微笑えている自信がなかったが、笑顔だと思われるものを顔に貼り付けた。


「わたくし、少し用事を思い出しましたの。今日はこれで失礼いたしますわ」

「え、ダイアナ様…?」


ダイアナは無理矢理微笑んだ。

相変わらず、出てくる声は自分のものでないように、どこか遠くで響いているように思える。

上手く微笑えているといいのだけれど。


「すぐに帰らなくては。レスリー様は、苗の面倒を見て差し上げて。ね?」


レスリー=アンにドレスの裾を摘んで挨拶すると、彼女の返答を待たずにダイアナは二人に背を向けて歩き出した。

駆け出してしまいたい気持ちを抑え、急ぎ足にならないように気を付ける。

馬車寄せに待たせていた馬車に近づくと、御者は少し驚いたような顔をした。

まだ暫くお茶を楽しんでいるだろうと思っていたのだろう。

ローウェル侯爵家の紋章の付いた馬車に乗り込み、自宅へ向けて走り出すと、ダイアナは静かに涙を流し始めた。


お読みくださり、有難うございました。


今夜できたらもう一話、コンラッド側の話を投稿したいと思っています。

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