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3.

よろしくお願いいたします。

少し短めです。

よく晴れた午後、庭園が見渡せるテラスにお茶の用意が整い、テーブルの上には温かいお茶とこの家の料理長が腕を振るった焼き菓子が並んでいる。

レスリー=アンとダイアナは、キャンデール家でお茶の時間を楽しんでいた。

学院に入学した二人はすぐに仲良くなり、お互いの家を行き来してお茶会を開いている。


「いついただいても、このフルーツケーキは絶品だわ」

「乾燥させた果物をたくさん入れていて、トニオが考え出したレシピです」

「キャンデール家の料理長は優秀ね」


上品にナプキンで口を拭うと、ダイアナはにっこりレスリー=アンに笑いかけた。

レスリー=アンも、笑顔で一口サイズに切られたそのケーキを口に運ぶ。

お茶を飲みながら、ダイアナの視線はキャンデールの屋敷に注がれた。

それも、ある一点に。

屋敷を背にして坐っているレスリー=アンは、すました顔でダイアナに告げた。


「コンラッドお兄さまは、今日は出かけていましてよ。夕方には帰るそうですけれど」

「……残念だわ。ちょっとだけでもお姿が見られたら、と思ったのに」


こんなやりとりも、もう何度繰り返されたか判らない。

それでも、コンラッドの部屋の窓を教えてくれたのも、こうして頻繁に二人だけのお茶会に誘ってくれるのもレスリー=アンだった。

ダイアナはちらりと友人の顔に目を遣り、そのまま再び主人のいない部屋の窓を見上げた。



◆◆◆


ダイアナの気持ちは、レスリー=アンにはすぐにに判ってしまった。

レスリー=アンが、ダイアナと二人だけで開いていた何度目かのお茶会の時、内気な妹が友人とお茶会を開いていると聞いた兄二人が様子を見に現れたのだ。


「また会いましたね、ダイアナ嬢」


そう云って、親しげに挨拶するコンラッドに、レスリー=アンは目を瞬いた。

長兄のコンラッドとダイアナが、知り合いだったとは聞いていない。

しかし学院では侯爵令嬢らしく、冷静で優雅な立ち居振る舞いのダイアナが、頬を上気させてコンラッドを見上げている。

それでもすぐに笑顔を貼り付け、何事もないように振舞っているけれど、瞳はついコンラッドを追ってしまうらしい。

学院では決して見せないダイアナの表情に、レスリー=アンは驚き、同時に少し嬉しく思ってしまった。


たまたま休日で家に帰ってきていた、騎士団に入団したばかりの下の兄のブルースは、コンラッドとダイアナのやり取りを見て、「ふうん…」と面白そうに瞳を煌めかせた。

レスリー=アンがブルースを見上げると、口角を上げて見返してきた。


「ごゆっくり」という言葉と共に二人の兄が引き上げて行くと、ダイアナは何事もなかったように無言でぬるくなったお茶を口に運んだ。

レスリー=アンをわざと見ないようにしているかのようだ。

頬にまだ少しだけ赤みが残っている。

自分から話を始めそうもないダイアナに、レスリー=アンは、今目の前で見た友人の態度から推察されることを確かめてみたくなった。


「ダイアナ様は…コンラッドお兄さまが…?」

「!」


ダイアナのカップを持つ手が止まり、エメラルド色の瞳を大きく見開いてレスリー=アンを見つめる。

言葉で答えはなくとも、レスリー=アンにはそれで充分だった。


「かなり年上ですけど、良いのですか?」


内気ではあるものの、相手によって率直な物云いになるレスリー=アンの問いかけに、ダイアナはカップを置いて向き直った。


「…コンラッド様は素敵な大人ですもの。同級生のご令息は、みんな子どもっぽくて霞んでしまうわ」

「そうですね。わが兄ながら、コンラッドお兄さまは整った容姿をしていますし、何でもできてとても頼りになりますわ」

「あら、レスリー様はお兄さまが大好きなのね。わたしにも兄がいるけど、時々意地悪なの」


ふふっと笑い合ったあと、ダイアナが悲しそうに眦を下げた。


「コンラッド様にとってはわたしは子どもみたいに見えて、とても相手にされないことくらい判っているわ。でもどうしても、コンラッド様のことを考えてしまうの」

「ええ」

「レスリー様は…その、嫌じゃない?わたしが…」

「いいえ、ちっとも」


云いにくそうに言葉にするダイアナを遮って、レスリー=アンはきっぱりと云った。

ダイアナの瞳を見返し、元気づけるように微笑む。


「コンラッドお兄さまに纏わりつく、ギラギラした目のご令嬢方の方が苦手です」


眉を寄せてそう云うレスリー=アンの言葉に、ダイアナは初めてコンラッドと出会った時のことを想い出した。

それでもあのご令嬢たちは、コンラッドにとって()()()()対象になるのだ。

自分のこの気持ちはどうせ憧れだと一笑されてしまうかも、と頭の隅で判っていても、ダイアナはコンラッドを思う気持ちを止められなかった。

けれど、その気持ちを笑わず、静かに受け止めてくれたレスリー=アンに、ダイアナは自分の気持ちを認めてもらったような気がした。


ダイアナは、膝の上で握っていた手を、テーブルに置かれているレスリー=アンの腕に伸ばした。


「わたし、コンラッド様のこととは関係なく、レスリー様とはずっとお友だちでいたいわ」

「わたしもです、ダイアナ様」


レスリー=アンは軽く瞠目し、目を細めて嬉しげに微笑んだ。

伸びてきたダイアナの手を握り返しながら、レスリー=アンは、悪戯っぽく彼女に笑いかけた。


「それで、いつの間にコンラッドお兄さまとお知り合いになったのですか?」



お読みくださり、有難うございました。


本文に詳しい説明を入れると返ってややこしくなる?と思い省きましたが、お茶会の時の席はこんな感じです。

レスリー=アンは意図して邸宅を背に坐り、向き合う形ではなく、隣に当たるところにダイアナの席を設けて、レスリー=アンの正面に庭園が見えるように坐っています。

ダイアナがコンラッドの窓を見上げる時に、自分は知らん顔で庭園を見ていられるように。

もちろんダイアナもレスリー=アンの意図に感謝して、そのまま受け入れています。


後ほど、もう一話投稿します。



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