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11. Side: コンラッド

よろしくお願いいたします。


バートラム家の夜会の話が重複していますが、よりコンラッド寄りに書いたつもりです。

ご了承ください。<(_ _)>

書類から顔を上げたコンラッドは、疲れたように目を閉じ、眉間を指で揉んだ。

思うように仕事が進まない。

相変わらず王宮からの呼び出しはあるし、忙しいのは変わらないが、こうも円滑に進まないのは屈託があるからだと自覚していた。

不本意だが、あのデビュタントの夜からだということも判っている。


レスリー=アンのエスコート役として参加したデビュタント・ボールは鮮烈だった。

数年ぶりに顔を合わせたダイアナ・ローウェル侯爵令嬢は、目を見張るほどに洗練され、艶やかで美しい淑女としてコンラッドの前に現れたのだ。

デビュタントのドレスは皆、白と決まっている。

ダイアナが身に纏っていたオフホワイトのデビュタントのドレスには真珠が散りばめられ、複雑に編み込んで高く結った豊かな赤い髪には金剛石のティアラが輝いていた。

同じように艶やかな赤い髪をした兄と二人で並び立つ姿は華やかで、会場の耳目を集めていた。


弟のブルースから、学院の卒業パーティではウォレン・アリソン公爵令息と参加していたと聞いていた。

ダイアナはウォレンと婚約したのかと想像して、妹の親友なのだ、祝福しなければと心算もしていた。

だが、実際に彼女に会ってしまうと、デビュタント・ボールで彼女の隣の立つのが彼女の兄だと判り、どこか安堵している自分に気がついたコンラッドは愕然とした。


「あと五年もすれば、蛹から蝶に羽化するように、誰もが振り向くような女性になるだろうさ」


以前に弟のブルースが、初めてダイアナに会ったあとに彼女を評して云った言葉だ。


「その通りだ、まったく」


コンラッドは独り言を溢し、自嘲的な笑みを浮かべた。



◆◆◆


コンラッドはその日、対面する相手に礼を尽くしてフロックコートを着てきていたことに感謝した。

ローウェル侯爵の実弟であるジョナス・バートラム伯爵は、文官として勤めていたところ、上司だった先代のバートラム伯爵に認められて彼の令嬢と婚姻し、バートラム伯爵を継いだ。

外国との交易に関する手続きにおいて実務能力に優れたジョナスには、コンラッドも意見を求めることが多く、今回も特別に時間を設けてもらって彼の邸宅を訪れたのだった。


そのまま軽い口調で、知り合いのみの堅苦しくない夜会に顔を出さないかとジョナスに誘われ、コンラッドは珍しく快諾した。

ジョナスはダイアナの叔父に当たる。


ジョナス・バートラム伯爵は顔が広い。

知り合いのみの堅苦しくない夜会とはいえ、それなりに大勢の人々が集まっているバートラム家のボールルームでは、滅多に夜会に顔を出さないコンラッドの姿を認め、あちこちから声がかかった。


ボールルームの人波の中に、目立つ赤い髪が部屋を出ようとする後ろ姿を見つけ、コンラッドは話している相手に断りを入れて思わずそのあとを追った。

彼女に話しかけようという明確な意図があった訳ではない。

ただ、華やかな色のドレスを纏った婦人方の中で、夜会にしては地味な青紫のドレス姿のダイアナが気にかかった。

彼女はボールルームから離れ、人のいない方向へと歩いているようだった。

廊下を進むダイアナは、一つの扉の中へ消えていき、扉はそのまま閉じられた。

ダイアナが消えた扉に視線を向けたあと、コンラッドは一つ溜息を吐いてすぐ正面の部屋へと足を踏み入れた。

夜会の騒めきは遠く、扉の開いているその部屋にはほんの数人いるだけだった。

部屋には大きな絵画が何枚か壁にかけられており、一際大きな絵画の前にいる一組の男女が深刻な様子で話しているのが目に入った。


「もうやめましょう、ヒュー様」


静かな女性の声が聞こえた。

部屋の中の動きが止まったようになり、全員の神経が会話の主に向けられていた。

とんだ場面に出くわしてしまったと、コンラッドはすぐに近くのカーテンの影に身体を寄せた。

不穏な空気が漂う中、下手な注意を引くことは避けたかったのだ。

それに、友人らしい男と共にいる黒髪の男性にも、部屋に入った時に気がついたのだった。


男女の揉め事の場面に遭遇したと思ったコンラッドは、落ち着くまで出ない方がいいだろうと判断した。

ところが、すぐに部屋に現れた人物を見て彼は目を瞠った。

ダイアナが一枚噛んでいたとは。

彼女は青ざめた顔をした、ストロベリーブロンドの女性を連れて男女に近づいていく。


「お話中、失礼いたしますわ」


囁きよりも少し大きいほどの音量だが、部屋の全部の耳がその声を拾った。

声をかけられた男女の注意がダイアナとその同伴者に向けられ、彼らは正反対の反応を示した。


「この方と…本当にこのままでよろしいのですか」


表情は窺えないものの、男に問いかける女性としては低めで穏やかな声を、コンラッドは複雑な思いで聞いていた。

淡々とした言葉の中に男への気遣い、引いては隣にいる女性への気遣いの感じられる声音で話すこの女性。

この場を取り仕切っているのは彼女だ。

少し前までは、ほんの少女だと思っていた、彼女。

コンラッドは、目が開かれる思いで成り行きを見聞きしていた。


あっという間に決着のついた一行がダイアナの先導で部屋を出ようとする時、彼女の囁き声がコンラッドにも聞こえてきた。


「レイノール様、覚悟をお決めなさいませ。バネット男爵家には、ニーナ様お一人しかいらっしゃいませんから、お婿様は歓迎されると思いますわ」


最初に見当をつけた通り、男の方はヒュー・レイノール伯爵令息で間違いない。

とすると、やはり隣の令嬢は、婚約者のセルマ・ドノヴァン子爵令嬢だろう。

あとから現れたニーナと呼ばれた女性はバネット男爵令嬢か、とコンラッドは貴族名鑑に載っている名を思い出す。

この三人とは今までほとんど何の交わりもないが、貴族の一員として大抵の家とその一族の名は見知っていた。

ドノヴァン子爵令嬢は、確かレスリー=アンとも同級だからダイアナに助けを求めた、というところだろうか。

セルマがダイアナに送った感謝の籠った微笑みを思い出し、コンラッドは事の顛末を推測する。


遠ざかっていく赤い髪がシャンデリアにキラキラと輝く様を見送りながら、彼女が一瞬立ち止まり、人波の向こうの人物に向かって頷いたことにコンラッドは気がついた。

こちらを向いているその人物が、彼女に向かってグラスを上げている。


では、バートラム伯爵は姪の計画に乗り、舞台を提供したという訳か。


「大したお嬢さんだ」


コンラッドは声を殺してそう呟き、込み上げる笑いを抑えることができなかった。




すぐにでも行動に移そうと色々と思考を巡らせていたコンラッドは、身動きの取れない状態に陥っていた。


あの夜会のあとすぐに、王太子殿下から呼び出され、隣国への同行を申しつけられたのだ。

隣国のスラロニオとは友好関係にあり、王太子は第一王女を正妃として娶っている。

正妃との間に生まれた姫を伴い、隣国への里帰りを兼ねた公式訪問だった。

既に同行メンバーは確定していたが、同行する予定だった外務大臣補佐官が急病に倒れ、官吏でもないのに隣国の情勢に明るいという理由でコンラッドに白羽の矢が立ったのだ。

王太子からも何度か頼まれごとを受けたことがあり、その王太子本人から「では、コンラッドに聞いてみてくれ」と指示もあっという。

本来なら伯爵位を持つのみのコンラッドに話がもたらされるのはおかしいのだが、倒れたのが正式な使節団の中でも表立たない事務方の一人だったこともあり、相談役という形での随行となった。

コンラッドも通常なら喜んで同行するのだが、今は自分の将来としっかり向き合いたいという想いが強い。

しかし、王太子のお声がかりとあっては断ることもできない。

ジリジリとした気持ちで隣国での一週間の行程を終え、夜遅くウイローワックスに戻ったコンラッドを待ち受けていたのは、衝撃と絶望の入り混じった知らせだった。



まんじりともせず夜を明かしたコンラッドは、鬱屈した気持ちを晴らそうと朝駆けに出ることにした。

早朝の冷たい空気の中を走るうちに、何か考えも浮かぶかもしれない。

そう思って愛馬を駆っていたが、気がつけばあの部屋で見かけた黒髪の男性を思い出していた。

彼の飄々とした雰囲気と、騎士のような大柄な体躯に騙される者もいるかもしれない。

コンラッドも直接話したことは数度しかないが、あの男はものの本質を見極める能力に長けた鋭い頭脳の持ち主だ。

彼がダイアナに興味を持つかもしれない…という考えが、あの時コンラッドの頭を掠めなかった訳ではない。

だが、そんなことあるはずがない、と思い込んでしまっていた。

認めたくなかったのかもしれない。

自分が隣国でぐずぐずしている間に、彼がダイアナに婚約を申し込んでいたとはーーー


不意に目の前に現れた兎に、コンラッドが気がついてハッとした時には遅かった。

反射的に手綱を引いたが、驚いた馬は後ろ足立ちになり、コンラッドはそのまま投げ出される形になった。

衝撃と嫌な音がして、コンラッドは意識を失った。


お読みくださり、有難うございました。


コンラッドが気がついたくらいですから、もともと騎士志望だったアーロンも、コンラッドが同じ部屋にいたことには気がついております。。。


今夜は、あと2話投稿する予定です。

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