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1.

ダイアナの物語を書き始めました。

どうぞよろしくお願いいたします。

色とりどりのドレスを着た十歳前後の令嬢たちが集められ、王宮ではガーデンパーティが開かれていた。

可愛らしい見た目の、美味しそうなお菓子がテーブルに並べられている。

しかしまだ誰も手をつけず、ただ眺めているだけ。

ダイアナはつまらなそうに、あれが食べられるのはいつになるのか考えていた。

お腹が空いていた訳でも、食い意地が張っていた訳でもなく、ただすることがなく間がもたなかっただけだ。


すると、集まった令嬢たちがある一方へ集まりだした。

ちらりと目をやった先に、令嬢たちより頭一つ分背が高い人物の金色の髪が見える。

令嬢たちに囲まれているその人はこの国の第三王子で、ダイアナも彼に会うために登城したのだった。

お行儀よく、お淑やかに、しっかり王子様に挨拶しておいで、と父と母に云い聞かされてきたのだけれど、ダイアナは、先を争うように彼に群がる令嬢たちの中に入るのは気が進まなかった。

気がつけば坐ったままなのは、ダイアナとその隣の少女の二人だけで、ダイアナはその少女に話しかけた。

ふわふわのプラチナブロンドは、触り心地が良さそうだと思いながら。


「あなたは行かなくていいの?」

「…わたし、あまり人の多いところは苦手なので」


少し困ったような、はにかんだ微笑みを向けてくる少女に、ダイアナは興味を覚えた。

殿下に挨拶をしなければいけないけれど、その順番は当分回ってきそうもない。


「わたしはダイアナよ。ダイアナ・ローウェル」

「! ローウェル侯爵家の、ダイアナ様でいらしたのですね。わたしは、レスリー=アン・キャンデールと申します」

「キャンデールって、キャンデール伯爵家の?」

「はい」


同じ年ごろとは思えない丁寧な言葉遣いに、ダイアナは少し驚いた。

気を抜くとすぐに砕けた口調になり勝ちで、母や家庭教師からくどいほど注意されるダイアナとは大違いだ。

ローウェル侯爵家も名家だが、キャンデール伯爵家は爵位以上の富と名声のある家だということはダイアナでも知っている。

そんな勢いのあるキャンデール家の人たちは、さぞお高く止まっているのだろうと思っていたダイアナは、内気そうなのに礼儀正しいレスリー=アンに益々興味が引かれた。


「あなたはディードリック殿下の婚約者になりたいと思う?」


目の前をひらひらと飛んでいく青い筋の入った蝶を目で追いながら、ダイアナはレスリー=アンに問いかけた。

正に、今日はそのためにこれだけ大勢の令嬢たちが集められたのだ。

令嬢たちはその目的を知っていて、ディートリックに少しでも良い印象を持ってもらおうとしているのだ。

本来なら、ダイアナもレスリー=アンも、もっと必死に殿下とお近づきになれるようにするべきなのだった。


「さあ…殿下がお選びになることですから。でも…」


はっきりとは云わず、伏目がちに言葉を濁すレスリー=アンからは、このガーデンパーティに積極的に関わろうとする様子が見えない。

殿下が現れても、そちらに足が向いてないことが二人の心情を物語っていた。

晴天の空を見上げて、ダイアナはポツリと云った。


「面倒よね」

「それは…!」

「殿下を本当に好きだったら、頑張れるのかしら?」


「どう思う?」というダイアナの問いかけに、レスリー=アンはただ首を振るだけだった。

第三王子のディードリックは、穏やかな性格だと聞く。

遠目にも、確かに優しそうな面立ちだとダイアナも思ったが、それならば尚のこと、彼が令嬢たちの嫉妬や意地悪から婚約者を守れるのかしら、と思う。

彼の隣に立つには、きっと自分がとても強くならなければいけないのかもしれない。

家のため、ということもうっすらダイアナは理解していたが、ダイアナにとってそれはとてつもなく面倒なことのように思われた。

だからつい、本音が口をついて出てしまったのだ。


「あら、いけない!殿下がこちらに来るわ。今の話は内緒よ、ね?」


ダイアナが彼方をちらりと見遣ると、金色の髪は令嬢たちを引き連れてこちらに向かって来ていた。

二人だけ離れて坐っていたのが、悪目立ちしてしまったのかもしれない。

ダイアナがレスリー=アンに振り向き、片目を瞑って唇に人差し指を当てると、彼女は静かに頷いた。

秘密を共有した者同士、ふふっと笑い合う。

二人は殿下を迎えるために立ち上がった。

ともかく、殿下に挨拶だけはしなければならない。


「ご機嫌麗しゅうございます、ディードリック殿下。ダイアナ・ローウェルにございます」


ダイアナは落ち着き払って、家庭教師に「完璧です」と褒められたカーテシーを披露した。

「外面がいいのはいいことだな」と、五つ上の兄には苦笑されたこともある。

二人の前で立ち止まったディードリックは、礼儀正しくダイアナの手を取りキスをする真似事をする。


「ローウェル侯爵家のダイアナ嬢だね。ディードリックだ。よろしく」

「ご機嫌麗しゅうございます。レスリー=アン・キャンデールでございます」


ダイアナに続いて、レスリー=アンも美しいカーテシーをして見せた。

陽に透けてふわふわのプラチナブロンドがキラキラと輝き、妖精みたいだわ、とダイアナは思った。

ディードリックの瞳が優しくなり、レスリー=アンに微笑んだ。

殿下は彼女に好感を抱いたらしい。


「レスリー=アン嬢、ディードリックだ。少し話がしたいのだがいいかい?」

「はい、仰せのままに」


少しオドオドとしたままだったもののなんとか微笑みを浮かべ、殿下にエスコートされてレスリー=アンは少し離れた席に坐った。

殿下の近侍の者たちが、殿下と一緒に移動してきた令嬢たちを離れたところへ移動させ、「順番にお話しできますから」と呼びかけている。


ダイアナはそっと令嬢たちから離れ、不自然でない程度に少しずつ移動して大きく息を吐いた。

殿下に挨拶はしたので、お父さまにもちゃんとお役目を果たしたと報告できる。


ダイアナの目の前を、さっきの蝶がひらひらと横切っていった。

彼女を誘うように庭園の奥へと飛んでいく。

ダイアナは蝶を追って歩き出した。


お読みくださり、有難うございました。


後ほど、もう一話投稿します。

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