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第八話

「他の部員達は殺す気なかったんだろ。もう殺したい相手は殺したから」

「ただ垂水先生で終わったら狙いに気付かれるかもしれない。それで最後に全員を狙って失敗した振りをするつもりだった」

 紘彬と如月が言った。

 垂水は助かりそうだが共犯がいないという確証が得られるまでは言いたくない。

「でもなんで……」

 弥奈が理解出来ないという表情で呟く。


「垂水先生と結城さんはともかく、小野さんは? 小野さんも君をイジメてたの?」

「え、イジメ? 春日さんと小野さんは仲良かったのに……」

 弥奈が聞き返した。

 相子が小野に手を掛けるとは思えなかったからだろう。


「明奈ちゃんを殺したのは私じゃない!」

 相子が激しく首を振った。

「やったのは仁美。明奈ちゃんは仁美にイジメをやめるように言ってくるって……そしたら口論になったんだって」

「見てたわけじゃないの?」

「私は学校休んでたから……」


 あの日、明奈から仁美にやめるように注意するというメッセージが来た。

 聞いてくれなければ先生に言うからとも。


 けれど次の日、学校で亡くなったと聞いた。

 話によると発見された時、まだ息が合ったらしい。

 もっと早く発見されていれば――。


 もし相子も一緒に行っていればすぐに人を呼ぶことが出来たかもしれない。


 そうすれば明奈ちゃんを助けられたかもしれなかったのに……。


 その後、部室を掃除している時に『あさじうの』の紙が見付かり朝霞が見立てだと言い出した。

 そして大宮が事故にあったというニュースを聞いた結城は、部室に『ももしきの』の紙を置いた。


「『ももしきの』は結城さんが置いたの?」

 如月が聞き返した。

 それは予想外だった。

「その上、『はるひの』の紙を入れたって……」

「結城さんが?」

 紘彬が確認するように訊ねる。

「じゃあ、『あさじうの』は偶然だったんだ」

 如月がそう言うと相子は頷いた。


 相子は結城に使い走りにされていた。

 結城が死亡した日も前日に学校に来るようにと結城に命令されていた。

 もう(かば)ってくれる明奈もいない。

 どうしようかと思った時、来るようにという念押しの通話で結城が「見立て」の事を言ったのだ。

 そして――。


「『はるひの』を入れたって。だから学校に来なかったら次の犠牲者は私だって」

「…………」

「どういう意味なのか聞いたら学校に来れば教えるっていうから……」

 怖かったのと、小野の最後を知っていそうな口振りだったので渋々登校したのだという。


 翌日――つまり結城の死の前日――。

 案の定、昼食を買いに行かされた。

 相子は昼食を買ってくると結城に「見立て」の詳しい話を訊ねた。


 すると、明奈と口論になって突き飛ばしたことや、『あさじうの』の紙が見付かったことや、そこから大宮の事故死を聞いて『ももしきの』を置くことを思い付いたと得意気に話した。


 明奈を死なせておきながら「見立て」殺人という事にして罪を逃れる気だと知って許せないと思った。

 相子は明奈を助けられなかったことを悔いていたのに結城は全く罪悪感がない様子で自分は賢いと自慢している。


 許せない……。

 仁美が死ねば良かったのに……。


 結城は聖子に自分と朝霞は被枕ではないと言われて焦ったとも話していた。

 しかし『結ふ』なら『くさまくら』の被枕だ。

 結城はコンビニのコピー機で『はるひの』をプリントアウトしたと言っていた。


 それで自分が自殺するために用意していた毒を使って結城を殺害することを思い付いた。

 結城が昼食を食べている時、隙を突いて毒を仕込めば――。


 元々結城自身が罪を逃れるために使った手なのだから迷宮入りになっても自業自得だ。

 そう考えて翌日、学校に毒を持参し、部室で昼食を取ろうと誘った。

 そして結城がスマホで誰かとやりとりをしている隙にサンドイッチに毒を仕込んだ。

 結城が倒れると鞄に『くさまくら』の紙を貼り付けた。


 部室に大宮の枕詞『ももしきの』と書いた紙が置いてあったから連続殺人だと思われている。

 結城を殺した後、『くさまくら』を置いておけば警察は一連の連続殺人だと考えるだろう。

 相子は『あさじうの』と『ももしきの』の紙には触っていないから指紋は付いていない。

 小野を殺した犯人は結城だから自分は疑われない――。


「いやいやいや。警察もそこまでバカじゃないぞ。別々の犯罪が同一犯に見えることがあるって事は知ってるから」

「動機を調べて同一犯が考えづらいとなれば偽装工作を疑うし」

模倣犯(もほうはん)愉快犯(ゆかいはん)が捜査を攪乱(かくらん)しようとするのは珍しくないからな」

 とはいえ、小野と大宮の関係を調べていて手間取ってしまったのだが。


「先生は? どうして……」

 弥奈の問いに、

「ずっと前に仁美にイジメられてるって相談してたのに何もしてくれなかった……先生がなんとかしてくれていれば明奈ちゃんが仁美に殺されることもなかったのに……」

 相子はそう言うと少年課の刑事に伴われて出ていった。


「気付いていればなんとかしてあげられたのかもしれないのに……」

 弥奈が落ち込んだ様子で言った。

 一史はどう答えればいいのか分からなかった。

 結城が倒れていた時は既に息がなかったという話だから弥奈や自分には何も出来なかったと言えた。

 だが相子や結城とは一ヶ月近く一緒に部活をしていたのだ。

 出来る事は無かったとは口が裂けても言えない。


「そう思えるなら次は誰かを助けられるだろ」

 紘彬の声に一史は顔を上げた。


 いるの忘れてた……。


 というか、少年課の刑事と一緒に行ったと思っていた。


「イジメは対応が難しいけど……それでも誰かが困ってるかもって思ったら声を掛けてあげて。それだけでも大分違うから」

「大人の助けが必要だけど教師が当てにならないと思ったら俺に連絡してくれ。ここの卒業生だから連絡先は先生に聞けば分かるはずだ」

 紘彬はそう言うと如月と共に出ていった。


 今はプライバシーに関することは簡単には教えてもらえないんだけど……。


 一史がそう思った時、弥奈が肩を(つつ)いた。

 振り返って弥奈が指している方を見ると机の上に紘彬と如月の名刺が置いてあった。


       完

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