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第七話

「え、結城の担任!? 垂水先生が!?」

 教師達から話を聞いていた紘彬が驚いて声を上げた。

「垂水先生は受け持ちがないんじゃ……」

 如月が訊ねると、

「担任を外されたんです。生徒がイジメを訴えたのにまともに取りあわなかったらしくて……親が教育委員会に訴えたので……」

「イジメられた生徒の名前は?」

 如月の質問に教師が答えた。


「どうしますか?」

 如月が訊ねた。

「プロじゃないんだし、すぐに鑑識が証拠を見付けるだろ」

 紘彬が答えた。

 状況証拠だけで逮捕することは出来ないが、そもそもそれすら薄いのだ。

 被害者の四人の関係を洗うところから始めなければならない。


 垂水はカプセルのサプリメントを飲んでいた。

 今見たら引き出しに入っていて鍵も掛かっていなかった。

 サプリの残りの錠数を一々数えるとは思えないし、だとすれば毒を入れたカプセルをこっそり入れるのは造作(ぞうさ)もないだろう。

 問題は――。


「他に結城と関係のある人間がいないといいんだが……」

「もし、いた場合は……」

「犯人がその人物の名字も被枕だってことに気付いてるかだな」

 紘彬が言った。


 放課後――。


 部室が使えなかったので一史は以前使った空き教室に向かった。

 中を覗くと弥奈と、聡美、相子、由衣がいた。

 一史も入ろうとした時、聖子と耕太が前後してやってきた。

 これで全員揃ったことになる。無事な部員は。


「先生の話、聞きましたか?」

 由衣が言った。

「うん」

 一史が頷く。

「先生は関係ないんですよね? 廊下で倒れたって聞きましたし」

「枕詞の紙が見付かったかどうかは聞いてないけど……」

 由衣に耕太が答えた。

「でも先生も枕詞だし」

「え!?」

 聖子の言葉に由衣と耕太が同時に声を上げる。


「一年の朝霞さんはともかく、尾上君は驚いちゃダメでしょ」

 聖子が言った。

「ごめん……」

 耕太が謝る。

 由衣が二年を上目遣いで伺うように見た。

 分からないからだろう。


「『いはばしる(いわばしる)』だよ」

 一史が教えた。

「『垂水』って入ってた? 例の連想ゲームってこと?」

 耕太が訊ねる。

 由衣も聞きたそうな表情を浮かべている。


「連想……なのかな。地名だけど」

 一史が考え込むような表情を浮かべると、

「『垂水』って地名は滝に由来して付けられたんじゃない?」

 聖子が言った。


「『いはばしる』は水がほとばしってるって意味から『滝』、滝から『垂水』だから連想ゲームと言えば連想ゲームかな」

 一史が言った。

「あとは水飛沫(みずしぶき)の泡から近江とかそんな感じね。『いはばしる』の被枕は頻出(ひんしゅつ)だから『垂水』も出るわよ」

「うっ……」

 聖子の言葉に耕太が声に詰まる。


「まぁ、なんにせよ、俺達全員被枕だし」

 一史が言うと、

「え……! 朝霞(あさか)はいないんじゃ……」

 相子が動揺したように言った。

朝霞(あさがすみ)は枕詞の方でしょ」

 聖子が言った。


 志賀さんはホントに知らなかったのか……。


 一史は聖子にチラッと視線を走らせた。

 てっきり知っていて黙ってたのかと思ったのだが。


「『あさがすみ』だと枕詞だけど『あさか』なら『玉藻刈(たまもか)る』と『人心(ひとごころ)』の被枕だよ」

 一史が言った。

「じ、じゃあ、部員は全員被害者になるかもしれないって事ですか?」

「無差別ならな」

 相子の言葉に答えるように紘彬の声がして部員達が振り返った。


 ドアが開いていて紘彬と如月が立っていた。


「揃ってるな」

 紘彬の言葉に、

「刑事さん、先生は……」

 弥奈が訊ねた。

「まだなんとも……」

 紘彬が言葉を(にご)す。

「枕詞の紙はあったんですか?」

 耕太の質問に紘彬が頷いた。


「なら、無差別って事じゃ……」

 耕太が言い掛けると、

「垂水先生は結城さんの担任でしょ」

 如月が言った。

「で、でも、小野さんや大宮君はクラスが……」

「小野さんが関係あるかは分からないけど――大宮君は事故だよ」

 如月がそう言うと、

「言い切れるんですか?」

 相子が訊ねた。

 紘彬はそれには答えずに窓際に目を向けた。


「それ、わざわざ用意したんだろ。飲まないのか?」

 紘彬が一史達の背後を指して訊ねた。

 その言葉に部員全員が振り返る。

 棚の影に隠すような形で二リットル入りのお茶のペットボトルが置いてあった。


「いつも部活でお茶なんて飲みまないのに誰が……」

「ふぅん、じゃあ、なんでここに?」

「さぁ?」

 弥奈が首を傾げた。

「もしかして、君が持ってきたの?」

 如月の問いに相子が慌てて首を振る。


「でも、君の鞄に入ってるの、紙コップじゃない?」

「え!?」

 相子は慌てて鞄を見下ろしてハッとした表情になる。

 鞄のファスナーはしっかりしまっていて中は見えない。


 (かま)を掛けたのか……。


 そして相子の反応からすると――。


「お客さんがいるんだし、お茶があるんなら出した方がいいんじゃない?」

 弥奈は相子の様子に気付かないらしくそう言った。

 その言葉に相子の顔が青ざめる。


「ちょっと……嘘でしょ……」

 聖子に言われた相子が、

「ち、違います!」

 否定するように手を振る。

「まさか刑事さんを殺したらマズいから思い(とど)まったとかじゃないでしょうね」

 聖子が詰問するように言った。


「『たまもかる』を用意してなかったんだろ。知らなかったから」

「え!? 次は朝霞さん!?」

 耕太が驚いたように声を上げる。

「違います!」

 相子が必死で否定する。

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