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言っても聞かない

「水澄さん。どうぞ、あーん」

「……………」

「? あーん」


リンゴを捌いてくれた天津川が、冗談抜きにあーんをしてきて引いている。マジであーんしてくるとか、やっぱりちょっと頭おかしいよこの子。

俺の心情を察することもなく、曇りなき眼であーんしてくるその様子は天然の小悪魔そのもの。


男子をめっちゃ勘違いさせてそう…。


「いやあの、自分で食えるって…」

「え?ですが包帯が巻かれたその手で食べるのは、かなり辛そうなのですが…」

「まぁ確かに飯を食うのもダルくなるくらい痛いけども、それでも女子にあーんしてもらうとか気恥ずかしくて嫌になるわ」

「そ、そうなのですか…。すみませんでした、出過ぎた真似をしてしまって」


しゅん。と落ち込んだ様子を見せる天津川。

いやなぜ落ち込む…?


天津川からリンゴが乗った皿とフォークを受け取って口に運ぶ。

……うんま。さすがブランド品。


「うぅ…。どうすれば水澄さんに恩返しが出来るのでしょうか?」

「そんな物はいらん。てかこれだけでもう十分だ。気にせずいつも通りの生活に戻れ」

「そういう訳にはいきません。水澄さんには返しても返し切れない恩が出来ました。なので、水澄さんにご満足いただけるまで、精一杯恩返しをさせてください!」

「だから重いって…。ナンパから助けただけじゃん俺」


面倒くさい奴に捕まったな〜、俺…。こんなに面倒くさい奴がまだうちのクラスにいたとは驚きだ。

これで三人目、いや二人目かな?ここまで俺にしつこく絡んでくる奴は。アイツは物を運ぶの手伝って欲しいとかくらいしか言って来ないし。

こういうのはいくら拒んでも聞かないから困ったものだ。


「はぁ〜…。わかったからもう今日のところは帰ってくれ。それとこんなに重いお見舞い品は二度と持ってくるな」

「はい!ではまた明日、お伺いしますね」


いや来なくいいって……もういない。拒否られる前に爆速で帰っていきやがったなアイツ。

頼むから退院するまでには満足して欲しいものだ。学校でも絡まれたらたまったもんじゃない。

あの容姿だ。きっと男子からの人気は相当な物だろう。そんな奴に頻繁に話し掛けれたら間もなく嫉妬の視線に刺される未来が見える。

男子高校生っていうのは、そういう生き物だからな。醜いことに。(個人の見解です)


――――――――――――――――――――――――


「え?そうなんですか!?」

「そうなんだよ。あの子ったら病院食は不味いからって、あんま食べないのさ。少し食べてくれるだけまだ良いんだけど……ほら。成長期の男子高校生だろ?ちょっと心配だね」

「……なるほど。わかりました!私にお任せくださいっ!」

「?」

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