銀髪美少女は天然で重い
入院生活一日目。
昨日からの緊急入院だから、二日目なのかもしれないが一日目の感覚だ。
天津川が帰ってからしばらくして、警察が事情聴取に来たり先生がプリントを届けに来てくれた以外は、特に問題はなかった。
葵の愛の抱擁(物理攻撃)もなくなってたし。
警察から聞いたのだが、どうやらあのキチガイナンパ野郎どもは薬をやっていたらしい。非合法の。
それを聞いてなるほどとは思ったが、それでも16のガキんちょを殺す勢いで殴るかね?
薬って怖い…。
まぁあんなことにはそうそう巻き込まれることはないだろう。
天津川も運が悪かっただけで、またいつも通りの毎日を送るだろう。俺と関わることのない毎日を……って、思ってたんだが……
「失礼致します。水澄さん、身体の調子はどうですか?フルーツの盛り合わせを持ってきたのですが……よいしょ、食べられない物がないと良いのですけど。んっしょ」
「いやなんで来てるんだよ。来んなっつったろ」
なぜかもうすぐ夕方に差し掛かる頃に、天津川がフルーツの盛り合わせを持ってお見舞いに来た。
お見舞いには来るなって全力拒否したはずだけど、まさか聞いてなかったなんて言わないだろうな?
「えっと。実は両親に昨日の件を話したら、母に『お母さんにはわかるわ。その水澄くんって子は悠太郎さんと同じタイプのツンデレよ!本当は一人だと寂しくて仕方ないはずだわ。行ってあげなさい!あと絶対に離すんじゃないわよ!?』と言われて、なるほど!と思って来たのですが……違うのですか?」
「全然ちげぇよ!何言ってんのお前の母さんは?頭の中お花畑か。お前もなるほどって納得すんなよ。あと悠太郎って誰?」
「私の父です」
「ああそうですかい…」
残念ながら俺はその悠太郎さんと同じツンデレタイプじゃございません。
いい年した大人だろう?なに少女漫画みたいな妄想してるんだか……でなんだあれ?さっきから気になってたんだけど。
「天津川。そのフルーツ盛り合わせ、おかしくない?」
「え?そうですか。基本誰でも食べられそうな物を持ってきたつもりなんですけど。一部は野菜に分類しますが……あ。もしかしてそういうのを結構気にする方でしたか?果物は木から生ってる物だろう、みたいな」
「ちげぇよ!俺をそんな超面倒くさい意識高い系みたいな奴と一緒にするな。俺が聞きたいのは……」
俺は天津川が持ってる大きい箱に入ってる異常物を指さす。
「どこに病院に大玉スイカなんて持ってお見舞いしてくる奴がいるよ!?しかもメロンまで……なんか夕張って書いてあるし。色々な意味で重いよ、お見舞いの品にしては」
「え!?普通は持ってこないのですか?今日は五月とは思えない暑さですし、ちょうど良いとおもったのですが…」
「だとしても院内は冷房効いててスイカ要らずだよ。持ってくるにしても小玉スイカ持ってこいよ。それは持って帰って家族と一緒に食え。そして二度と来るな」
この子ちょっと頭おかしいんじゃないの?
よく見たらドラゴンフルーツとかあるし、チョイスがもうおかしすぎるって。
あれって誰でも食べるものなの?俺勝手に珍味扱いしてたんだけど、割と主食の部類なの?
「そう、ですか…。すみません、気が利かなくて。こういうことは初めてでして、どれを持っていけばいいのかわからず…」
俯いてショボーンとしてしまった天津川。若干涙目である。
さすがに言い過ぎたか?でも頭おかしいチョイスなのは事実だしな。
……いや。よく考えてみれば、このまま返したら「ちゃんとお礼が出来ませんでしたし」とかでまた明日来そうだし、何個か貰っておいた方が良いか?
うーん…。仕方ない。リンゴくらいは貰っておくか。
「はぁ〜…。まぁせっかくだ、とりあえずリンゴをくれ。あと他に何かある?スイカとメロンのせいで他がよく見えん」
「! は、はいっ!どうぞ。こちらは家で母に持たされたのですが、青森のブランド品だそうです」
「リンゴも重いな〜…」
「今食べられますか?皮をお剥きしますよ。……あ。手も痛いですよね?ご自分で食べられそうですか?あーん、しますか?」
「そしてお前も重たいな…」
「えっ?えっと……た、確かに最近ちょっとお肉が付いてきてしまってる気がしなくもないですが……」
「物理的な話じゃねぇよ!?お前の体重なんて知るか!」
昨日と今しか交流してないが、とりあえず天津川がどんな奴かはわかった。
コイツ……超ド級の天然娘だ。漫画アニメだと人気だけど、現実にいたら超面倒くさい奴だ…。
「そういや、昨日のことは両親に話したんだろ?お前の父親はなんか言ってなかったのか。男のお見舞いに来ること」
「えっと……はい。たぶん大丈夫だったと思います。なぜか片手で目を覆って、天を仰いで『水澄くん。ごめん、俺には止められない…』と言っていましたが」
「自分の妻と娘の暴走くらい止めろよな!?」




