バカップル(幽霊)の日常
楽しんでいただけたなら幸いです。
「そういえばさっきのシアタールーム、けっこう俺たちみたいなのいたな」
「うん。すっごいいたよね。お仲間さんと勘違いしたのかな?」
「人間の恐怖心だったりの負の感情に引き寄せられてんだろうさ。でもスクリーン前で座禅組みながらはちょっと勘弁してもらいたかったな。内容に集中出来なかった」
「私はあの人のおかげで中盤までなんとか耐えれてたよ……」
「だから前半落ち着いてたのか。にしても、なんで幽霊がホラー映画怖がってんだよ。俺たち題材にされる側だろ?」
「怖いものは怖いんだもん!お仲間さんは慣れてるけど人工モノの方がより恐怖を搔き立てるように作ってあるからすっごく怖いんだもん!」
「そんなもんかねぇ。それと、いい加減腕組むのやめてもらえませんかね。色々と俺の腕に当たってんだけど」
「それが目的で腕組んでるんだけど?」
「はぁ……」
昼下がり、しかも人通りが多い駅前通りで悪びれもせず恥ずかしがる様子もなく、バカップルよろしく腕を組みながら歩く二人の幽霊。
こんなことができるのも、この二人の姿を見ることができる存在がほとんどいないからだ。この光景を見ることができるのは、相当な霊感を持ち合わせているか、この二人と同じあの世の存在ぐらいだろう。
「ところでマーちゃん。キスはいつしてくれるのでしょうか?」
「……は?」
「正確な日時の情報を私は即刻私の彼氏である秋川昌道様から聴取しなければなりません」
「……おい」
「先程あなたは映画館のホールでキスでもするかと述べておりました。もちろん本気で言ったんですよね?そうですよね?冗談で言ったのではないですよね?本気で言ったんですよね?」
「……お前本気って二回言ってるのか気づいてる?」
「当たり前です。何を言っているのですか?大事なことだから二回言ったのです。それとも何回でも言って欲しいのですか?本気で言ったんですよね?本気で言ったんですよね?本気で言ったんですよね?ほんきでいったんですよね?ホンキデイッタンデスy」
「……ん」
「んんっ!?」
こうなると望海は面倒くさくなるので、昌道はさっさと望海の唇を自分の唇で塞いでしまう。こんなやり取りもう何回目だ?と思いながら。
「ほれ、お前のお望みのキスしたぞ。これでいいか?」
「……不意打ちでしないでよ~私のガラスハートがもたない……!!」
「お前のガラスハートはロケランぶち込んでも砕けない防弾ガラスハートだろうが」
「でも何発も撃ち込まれたら砕けちゃうよ!」
「何発もねぇ?だったらここで試してみるか?」
「そんなことされたら私のガラスハート砂になっちゃうから!でもいつかやって下さいお願いします!!」
「待て待て待て土下座しようとするな。あっちのスーツ着た男性幽霊がドン引きした顔でこっち見てるから止めなさい」
「は~い。でもいつかしてね連続キス。私は死ぬまで待ってるから!」
「お互いとっくに死んでるだろうが……」
このコント劇はお互い幽霊だからこそ出来ることだ。もし二人が生きていてさっきのやり取りをすれば男性幽霊よろしく周囲からドン引かれ、SNSの話題ランキング上位は確実だろう。
そんなやり取りを終えると、近くにあったバス停にバスがやってくる。どうやら偶然にも時間だったようだ。
「お、丁度いい。これ乗って帰るか」
「そうしよっか。映画館行くとき電車だったもんね」
バスが完全に停止して扉が開く。……前に二人は扉をすり抜けて車内に入って後部座席の右の窓側にちゃっかりと座る。これも幽霊ならではだ。生きている存在には見えない。注意もされない。物体なんかリアル貫通マジックショー。たまに他の幽霊に怒られたりするのは内緒だが。
「窓から見る街並みって、なんでいつもと違うように見えるのかな?」
「窓枠が絵画の額縁みたいになってるからじゃないか?俺はそう思うんだが」
「そうかもね。あ、でもマーちゃんはいつ見てもカッコいいから安心してね♪」
「なんじゃそりゃ」
またバカップルみないな会話をし始める二人。そんな会話に夢中だからだろうか。二人はまだ気付いていない。
たまたま二人の隣に座った人に霊感があって、この二人がバスを降りるまで恐怖をあたえ続ける迷惑乗車をしていることに。