もう異世界召喚をさせない
異世界召喚されました。
聖女だって言われました。
世界を救ってほしいと言われました。
世界を救いました。
帰してほしいと言ったら、出来ないと言われました。
泣いて泣いて、慰められて、一度は許して。
でも、疑いを持ってしまった。
……そして、知ってしまった、真実を。
全身が崩れるかと思うほど衝撃を受けた。
もう、どうでもいい。そう、思った。
……でも、まだやるべきことがある。
震える手で必要なものをかき集める。
相応しい場所に転移する。
準備を始める。
必要な準備は多くない。
最初の犠牲者は王妃に決めた。
この世界でたった一人、私を避けていた彼女を、最初に殺す。
もう後戻りできないように。
王妃を殺した。
これで術は開始する。
もう後戻りはできない。
次は平民の命を奪う。
村ごと、町ごと、都市ごと。
術の完成が近づくにつれ、効率よく殺していけるようになる。
もう、この世界に生き残っているのは、王侯貴族しかいない。
わざと残した。
術には取り込んであるから、逃げたり抵抗はできない。
これから一人ずつ術の犠牲になっていく。
出来るだけ恐怖や絶望を感じてくれるように。
動物や植物ももう滅んでいる。
平民と同時進行で滅ぼしていおいた。
もう、この世界に生き残るすべは無い。
術の完成まであとわずか。
もう、すべきことはない。
後は、術が勝手に完成してくれる。
時間は、まだもう少しある。
その間、考える。
どうして。
どうして、私は、信じてしまったんだろう?
異世界召喚なんて、誘拐でしかないのに。
帰すすべもなく召喚するようなものなど、犯罪者でしかないのに。
犯罪者たちが、元の世界を傷つけずにいてくれたなんて……
私の召喚に使われた術は、術の対価を召喚先の世界から引き出すものだった。
私のいた世界は、私が当時いた場所を中心に半径数十キロが死の荒野になっているはず。
最初に知ったときは、自分のせいで死なせてしまったと思った。
私の家族、友人、知り合いと知り合いですらなかった数え切れない人々を。
けれど、思い直した。
殺したのは、この世界、この世界の人々。
そして、召喚は私が最初ではない。
でも、最後にすることはできる。
この世界には魔法は無かった。
代わりに命術があった。
生贄と術者本人の命を対価に願いが叶う。
この世界で、死者蘇生は禁忌ではなかった。
生贄がこの世界で術者の最も好ましい者である必要があるため、意味がなかっただけ。
理論上は可能、そう知られていた。
私が今行っているのは、異世界召喚の応用と死者蘇生を合わせたものだ。
うまくいくかは分からない。
ただ、生贄がどれほど多く必要になろうとも構わない。
生贄がこの世界の全ての人間であることが都合が良かった。
異世界召喚は禁忌だった。
召喚先に膨大な生贄を必要とするからではない。
術者に長い寿命が残っている必要があるためだ。
私を召喚した者は、若くて人望があったそうだ。
私を召喚するために、彼が犠牲になったのだ。時折そんなことを言われた。
この世界の人間は腐りきってる。
だから、王妃を選んだ。
出会った中で、王妃しかいなかった。
私が犠牲者であるとわかっていた人。
……そろそろ術が完成する。
せめて、最後に家族や友人にもう一度、会 いた かっ……
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