6 迷宮都市にて
夕暮れ時に私達は、佐加里の街が見えるところまで辿り着いた。
街は水堀が張り巡らされており、内側には木板で補強された土塁が築かれ、所々に櫓が建てられていて大きな城のように見えた。
魔物対策で大きな街は、大抵このような作りになっており、水堀や土塁は魔法によりある程度作られているらしい。
村も空堀と木柵で囲われて、ちょっとした魔物では入れないようになっているらしい。
「魔物がいるから、防壁とか必要になるのね。」
「魔物が魔力溜まりから出てくるのは、滅多にはないが、襲撃に遭うと被害が甚大になるからな。」
「ここは、迷宮に近い迷宮都市だから、迷宮から魔物が溢れたら、大変な事になるから、特に立派な作りになっている訳よ。」
関所で人の出入りは確認しているため、街に入るのに特に止められることもなく、入ることができた。
門番が立っているが、魔物が来た際と日が沈んで一時間くらいしたら、門を閉めるため常駐しているらしい。
朝は日が出ると開かれるとのことだ。
「では、九重殿と茜ちゃんは、俺が逗留しているお政さんの錬金屋来てくれ、街の宿も決めてないだろ、そこで泊まれるように頼んでやるから。」
「迷惑でなければ、お願いします。」
「旅籠ほどではないが、宿代は取られるぞ。」
「お金なんてないですけど。」
「ははは、心配ないな。さっきの盗賊討伐の報酬を換金したら、お妙さんに渡した分差っ引いて等分に分けると一人銀貨1枚と銅貨53枚になるから、それと魔力溜まりの報告分の銀貨2枚だ。これで宿代と必要な物を買い揃えるといい。それで身の回りの物揃えても、贅沢しなければ二週間は生活できるだろ。」
「いいのですか?盗賊討伐の報酬まで頂いて。私何にもしてないですけど。」
「石を投げてくれたではないか。茜殿がいなければ、お妙殿を無事に討伐できなかっただろう。」
「そういうことだ、遠慮せず貰っておくがいい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
九重さんも、竜馬さんもお妙さんもそうだったけど、私にも親切にしてくれて、ある程度この世界の人を信用しても平気そうね。
そんなことを考えながら、会話をしながら街に入り、しばらく大通りを歩くとその通りに面した小さな店の前についた。
「大通りに面してお店を構えているのね。」
「茜ちゃん、この国では、飲食店と工房以外の商いは大通りにしか構えられない決まりがあるのだ。」
「そうなのですか。」
「勿論、抜け道もあるが、そうやって店を開いても客は大通りしかいないから長続きはしないがね。」
「お政さん、鳳屋だ。今帰った。すまんが三名分食事を用意してくれないか。」
「鳳屋、どうした秋津領に向かったのではないのか?それに飯を三人分?」
「秋津領に行っても空振りになりそうなので戻ってきた。それで、ちょっと後ろの連中と知り合いになって、泊めてやってもらえないか。」
「そうかい。まぁ構わないがこんな時間じゃ、大した食事は出せないよ」
「まぁ、お前らも店に入ってくれ。」
「お邪魔します。私は、狐塚 茜、今は便宜上、九重 茜と名乗っています。よろしくお願いします。」
「夜分に失礼仕る。九重主税と申す。」
「おや、狐人とお武家さんかい。私は、錬金屋のお政という者だ。よろしく。訳ありなのかい、鳳屋。」
「実は、秋津領に行く途中、村の娘が盗賊に襲われていて、俺らで助けた。そしたら、そこの九重殿が、秋津藩に仕えていたらしく、領内の事情を聴いたら、流行り病はないとのことを聞き、戻ってきた。それと、そこの狐人は、茜さんと言ってどうやら漂着者らしいので連れてきたわけよ。」
「いろいろと薬屋以外のことで手間があったようだね。鳳屋よ。」
「でも、盗賊のおかげで、商売空振りするよりは、儲けた。」
竜馬さんは、そう言ってニンマリ笑った後、お政さんに話をつづけた。
「それと、この茜さんは、この九重殿の妹君ということになっている、あと漂着者について、詳しく知りたいとのこと、それとこれからの生活のための素養調査や、困りごとにも話になってやって欲しい。俺は、九重殿に部屋の案内とかしておくから、よろしく。」
「何勝手に決めているのさ。まぁ、部屋は余っているから、適当に使って構わないから九重殿を一階の空いている部屋を案内して世話しておくれ。」
お政さんにそう言われた男二人は、板間に腰掛け、足を洗い、手拭いで綺麗に拭くと、草鞋を脱いで、暖簾を潜り奥へと消えていった。
それを見送ると、お政さんは、私に話しかけてきた。
「茜さんといったね。料理はできるかい?」
「あまり得意ではないですが、自炊をしていたのでそれなりに。」
「では、料理しながらいろいろ話そうじゃないかい。生憎今日は何の準備もしてないから、簡単なものしかできないけどね。」
「わ、わかりました。よろしくお願いします。」
私も、九重さん達と同じように足を洗うと、『浄化』の生活魔法をお政さんに掛けて貰う。
そして、お政さんについていって暖簾を潜り、廊下の奥の突き当りの土間になっているところで、調理を手伝った。
玄米を竈で焚き方を教わり、瓜の漬物を糠から出して洗うよう指示を受け、菜っ葉と香草とシジミの汁物を作る作業をしながら、お政さんと話をした。
お政さんから聞いた話では、新しいところだと、私たち漂着者は、自分の魔力に近い人物から言語知識を得ることができるらしいことと、こちらの世界に来るのは本来魔力だけのはずなので、意識体の一部が付随してこちらに来たため、その魔力に近い人物の体を元に体が作られるとのことらしい。
昔、言語知識については、漂着者の中に稀にこちらの言語が話すことができない者や、異国の言葉を話す者がいたため、そう結論付けられたらしい。体については、向こうで医者だった漂着者が、自分の人体とこちらの人の人体の作りが違うことを知った。
だが、自分とこの世界の妻の間に子供ができていたことを疑問に思い、自分の死後、弟子に解剖を頼んだところ、こちらの人間と同じ作りだったことがわかった。その後弟子たちは、色々調べ、考察した結果、そう結論付けられたらしい。
つまり、自分の体は、向こうにあり、普通に生活している可能性があるとのこと、転移ではなく、もう一つの自分がこちらの世界に作られた可能性があるとのことだ。
私は、お政さんの説明を聞き、自分が狐人としてこの世界にいることから、それは、かなり正解に近い推測だろうと思った。そして、こうつぶやいてしまった。
「ますます、自分が元の世界に戻れないという結論に近づいたわね。」
「ん、帰りたいのかい。」
「それは、まぁ、向こうに親兄弟、友達もいますし、その記憶も持っていますからね。」
「それなら、諦めずに帰る方法を探しながら、こっちの世界を楽しみな。夕飯の後、茜さんの素養も調べてあげるから、そこからやりたい事を選べばいい。どうしてもその他にやりたいことがあれば、苦労するけどやれないこともないけどね。」
「素養ってスキルみたいなもの?」
「スキル?何だいそりゃ」
「外国語は、わからないのかな、それとも言葉によってはうまく翻訳されないのかな?ええとその人が持てる技能?技術?」
「似たようなものかね。素養があると何年もかかって習得する知識を早く習得できるようになる。例えば錬金術で一人前になるのに素養がないと二十年かかるものが、素養があると遅くても十年、早けりゃ一年で一人前になれるのさ。」
「違うような、そんなもののような?」
茜は、ファンタジー小説やゲームで得た知識と照らし合わせながら、ちょっと違うような大まかには合っているような、と考えながら、そう答えた。
「何だいそりゃ。」
「私も改めて聞かれるとよくわかんなくて、あはは…。」
「まぁ、いいよ。丁度準備も終わったし、男どもも夕飯を待っているだろうし、この話はいったん終わりにして夕飯にするよ。」
お政さんは、そう言って、釜のご飯を御櫃に移すと私に、お漬物の皿と菜っ葉の汁物を持っていくよう指示をした。
次回のあらすじ
茜は、迷宮都市で、生きるために、これからの生活を模索していくのでした。次回 第7話 これからの生活 是非読んでください。




