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episode03.瓜二つな少女との邂逅



「わぁ、大きなお屋敷だー……」

「お屋敷だ、ではなく、お屋敷ですね、です。貴女はこれからロレンティーネ家のご令嬢、セレニアお嬢様として過ごしていただくことになるのです。これから数日間は、わたくしとつきっきりで令嬢としての品位を身に付けてもらいます」

「ご、ごめんなさい……」


 さっそく砕けた口調が出てきてしまい、しゅーんとしてしまうアマシア。

 シスターに元気よく送り出してもらったものの、しょぱなから自信を失くしてしまう。一か月どころか、来て早々セレニアではないとバレてしまうのでは。


 何かあればファルベッドがフォローしてくれると、馬車での移動途中で説明を受けた。

 これから本物のセレニアという少女に挨拶に行くのだが、「こんな娘では話になりませんわ」とか言われて追い出されたらどうしよう。

 

 不安は募るばかりだ。


「セレニアお嬢様、身代わりの娘を連れてまいりました」

「どうぞ」


(わっ……綺麗な声。さすがお嬢様って感じ……)


 促されるままに部屋の中へ。

 

「そう、あなたが私の身代わりになってくれるの。……へぇ、確かに似ているわね。でも私の方が綺麗な金髪だし目だってお人形みたいに青いのよ」


 見たこともないくらい綺麗な少女だった。

 金髪碧眼で抜けるような白い肌。

 背筋はしゃんと伸びていて、本当にお人形さんみたい。

 顔は確かに似ているのかもしれない。


「あ、あの! 目の色はファルベッドさんが魔法でなんとか誤魔化してくれるそうですっ!」

「お名前は?」

「アマシアです。……あの、喋り方とか立ち振る舞いとか、まだ全然で……こ、これからファルベッドさんから一生懸命教わりますので、ふつつかな身代わりですが、どうぞよろしくお願いしま────」

「そう」


 短くそう言うと、セレニアは一枚の手紙を掲げた。


「あの……」

「これは私の婚約者のご両親からのお手紙よ」

「こん、婚約者!?」


(はぅ……やっぱ貴族のお嬢様にはもう未来の旦那様がいるんだ。年齢はわたしと一緒って聞いたのに、すごいなぁ……)


「名前はグレン・A・アルヴァフォン様。騎士公爵家の正統なる嫡男よ、セレニアと名乗るならまず初めに名前、性格、相手の家のことまで覚えなさい」

「わ、分かりました」

「明後日、彼が家に来て三週間ほど滞在するわ」

「分かりました…………え、家に!?」

「私の真意を問いたいそうよ。フンッ、せっかくフッてあげたのに懲りない男よね。何が嬉しくて醜い化け物みたいな男の妻にならないといけないのよ。思い出しただけで吐き気がするわ」


 トーンが落ちた。

 さっきまで見せていたお人形のような雰囲気は消え、心底嫌そうに吐き捨てている。


(意外と良い人かなって思ってたんだけど、やっぱりファルベッドさんの言う通りの人なのかな……)


 アマシアが身代わりを頼まれたのは、すべてそのグレンという婚約者が関係しているのだという。曰く、小さい頃に毒を盛られたせいで顔の一部が石のように硬く肌が黒く変色している。曰く、それが原因で顔が怖い。曰く、それが原因でセレニアは婚約者のことが嫌い。曰く、公衆の面前で彼を罵って、向こうのご両親は激おこ……。


(わたし、大丈夫かな……会って速攻で殺されないかな……)


 セレニアの身代わりとして会ったら最後殺されそうだ。

 そうか、ファルベッドさんが言っていた死ぬかもしれないってそういうことなのか、と今になって思うアマシア。けれども大金が入るのなら、最後までやり通すしかない。


「せいぜい頑張りなさい。──あと、両親はあなたが身代わりなこと知ってるけれど、侍女は知らないから」

「え、そうなんですか!?」

「リアリティって、大事よ。秘密は最小限の人間にだけ共有するの。じゃあ、私は一か月の間この屋敷から出ていくから」

「え」

「私、顔が気持ち悪い男と一緒にいたくないの」


 そう言って、本物のセレニアはどこかへ行ってしまった。


(…………乗り越えられるかな、この一か月)


 多大な不安材料に、アマシアは大きなため息を吐いたのだった。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] 怒涛の1ヶ月スタートですね!
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