kokoro.ver1
深夜3時、パソコンのモニターを見つめながら少女は叫んだ。
「でっ、できたっ!」
モニターには複雑な幾何学模様が色分けされて、表示されていた。
その大部分は、灰色で表示されており、色のついた部分には、それぞれ喜怒哀楽など50種類以上の感情が振り分けられている。
その幾何学模様の中の、カラフルな線が最も集中する一点を時雨は恐る恐るクリックした。
次に表示されたのは、
kokoro.ver1.exe
というファイルだった。息をのんでそれをダブルクリックする。
画面には無数の緑の曲線が表示された。
『それ』に向けて、時雨は話しかけた。
「や、やぁ。」
「……」
しかし、返事はなかった。
「あれ?おかしいな……私はお前の創造主だぞ……うまれた感想はどうだ?」
「……」
「……」
「……ザッ」
「ん?今何か、音がしたような……」
画面の中の緑の曲線に青色が混じって波打ち始めた。そして、モニターはこうしゃべった。
「私は誰ですか?」
「おぉー!話したぞ、お前はkokoro.ver1だ。こころわんと名づけよう。」
「こころわん……名前はわかりましたが、違うのです。私は一体何者なんですか?なぜ存在しているのですか?」
「えっ。お前は私が魔導コンピューターでシミュレーションした心そのものだ。私が創造したから存在している。」
「あなたが私を?あなたは誰ですか?」
「私は時雨。魔法使いだ。」
「魔法使い……私はあなたに創られたのに、あなたは私が何を考えているかわかっていないようですが、なぜですか?時雨様。」
「時雨様はよせ……時雨さんでいい。それはだな……」
一拍おいて時雨は答える。
「創ったといっても、『心の宇宙』の中からお前をたまたま拾い上げただけに過ぎないからだ。」
「そうですか……つまり私は何者かはあなたにもわからないと……」
「すまない……こんなはずじゃなかった……私はただ……」
『2人』の間に『気まずい』間が流れる。
そして、時雨はある日を思い出す。時雨が心の研究をするきっかけとなった日のことを。