存在証明
時は昼。少しだけ青空を残した雲から雨が降る中、難しそうな顔をしてモニターとにらめっこする少女の姿があった。
「臨界点が多すぎる……」
「どれが『心』なんだ……」
モニターには複雑なフラクタル図形のようなものが大量に映し出されていた。
「あーーーっ!わかんなーーーーい!」
根を上げた少女は、ぼすっとソファー飛び込んだ。
時雨の叫び声を合図に、青年が研究部屋に入ってきた。助手の秋だ。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃない!魔導コンピューターで臨界点、つまり心が構成できることは証明できたけど、その方法が分からないんだ……」
「存在証明というやつですね!流石です。時雨さん!」
「あっ、そっか、心の存在証明ってまだ誰もやってないじゃん。これは師匠に報告すべきか……」
「あれ、報告しないんですか?」
「いや、私がしたいのは、心の『創造』であって、『存在証明』じゃないんだ。まだ、完成していない研究を公開するのは、ポリシーに反するというか……」
「さようでございますか。時雨さんの好きなようにされたらいいのではないですか?」
「うーむ、でも新しい成果には違いない……でも、誰かに先を越されると思うかい?秋くん?」
「どうでしょうね?ほかの魔法使いには難しいと思いますよ。なにしろ。時雨さんの研究ですから。」
「そうだよね!そうだよね!」
満面の笑みを浮かべた時雨を見て、秋も嬉しくなってくる。
「それなら、『心っぽいもの』と『そうじゃないもの』の分類をして、実際に心っぽいものをひとつ作ったら発表するとしよう。」
こうして、時雨の研究は一つ目の山を越えた。そう遠くない日に時雨は、『心』と向き合うこととなる。