街
「ふぅー、やっと着いたか!」
心なしか足取りが軽くなった少女は、魔法使いの時雨。かれこれ一時間近くかけて山の深くから街まで降りてきたのだ。
「着きましたね。お疲れ様です。」
と言うのは、助手の秋。
「着いたらメシだ!私はパンが食べたい!秋は?」
「私もパンでいいですよ。」
秋はいつも通り、時雨に同意する。
「それならあそこの焼きたてパンのお店だ。善は急げ!いくぞ、秋!」
少女は駆け出していく。
急いでいるのは腹の虫の方だろうなと秋は思いながら、軽くかけていく。
パン屋の扉を開く。チリーンと心地の良いベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませー。」
時雨の足取りはますます軽くなっていく。
「よし。選ぶぞ。」
時雨も秋もセルフサービスで好きなパン選んでいく。
甘いものが好きな時雨はクリームパンとメロンパンに、お砂糖たっぷりのミルクティーを選んだ。
一方、秋はソーセージパンとクロワッサンにコーヒーだ。
「ここのパンはいつ食べても美味いなー」
ともくもくと食べる時雨を見て、秋は微笑みを浮かべる。
パンを食べ終えると、時雨はおもむろに秋にこう語りだした。
「私の『心』の研究は、方向性は間違っていないと思うんだ。」
「喜怒哀楽は心の現象論として、初期の心の研究で使われていたんだけど、現象論止まりで一向に先に進まなかった。そこで……」
間をおいて、秋をじっと見る時雨。どうやら聞き返すのをまっているらしい。
秋は慣れた様子で、
「それで、どうするのですか?」
と聞き返す。間髪入れずに時雨は答える。早く言いたくて仕方なかったのだろう。
「そこでだ!一度現象論から離れる!完全に量子論理を使ったモデルの構成物だけで、心のフレームワークを作りパラメーターをうまく調節し、臨界点が見つかれば……」
「見つかれば?」
「心の普遍的な部分が自然発生する!それで、後は臨界点の種類を分類して……」
「さようでございますか。」
秋は、時雨に合わせる。
「もー、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてますとも……」
秋は微笑みながら答える。
「よくはわかりませんが……」
「もー!もっと勉強してよね!それでも私の助手なんだからね!」
そこで、秋は腕時計に目をやる。
「おっと、もうこんな時間だ。早くしないと、魔法道具店が閉まってしまいますよ。」
「えっ、急がなきゃ!」
慌てて飛び出していく時雨の後を見て、秋は自分の分の会計をする。
正式な魔法使いの時雨は街での食事はタダになる特権があるが、ただの助手の秋は食事代を支払わないといけないのだ。もちろん、魔法使いの研究が街の人にいつの日か還元されるという見返りがあるため、無料になっているのだ。魔法で得られた利益の一部が、魔法使いたちの生活費になってもいる。
このパン屋で言えば、火の研究をした魔法使いがいて、いい焼き加減になるように火力が自動調整される魔法の火を発明した実績があったりする。
そんなことはさておき、2人は魔法道具店にやってきた。
時雨はてきぱきと次の実験に使う材料を見つけていく。
「おじさん。そこの緑の魔石を3つと、魔力水を一瓶、それから人間の血液を一瓶ね!」
「まいど!お嬢ちゃん研究頑張ってくれよ。」
「うん。いつも、ありがと!」
「それにしても、お嬢ちゃんはなんの研究をしているんだい?」
「えーとね。それはまだ秘密!」
「そうかー。じゃあ楽しみにしてるからの。また、よろしくな。」
「うん。じゃあね。」
日も暮れ始めた中、少女と青年は街から山へ向かって帰っていく。
「はぁー、また、歩くのか……」
「そうですね。歩きましょう……」




