『婚約破棄』は時空属性の魔法
『婚約破棄』は時空属性の魔法です。
なにを言っているんだ? とお思いの方も多いでしょう。
確かに『婚約破棄』は逆行や巻き戻りを引き起こすが、そうでない場合も多いではないか、と。
ですが、効果が違うからこそ時空属性なのです。
『婚約破棄』の発動方向は固定されていません。ランダムなのです。
ランダムだからこそ過去へ戻ったり未来へ転生したり、前世の記憶が蘇ったりするのです。
ハーレムや逆ハー展開の場合は発動方向がランダムだからこそ、複数の対象がひとりの主人公に集中するという、とても可能性の低い未来に飛んでいるのです。
そう、『婚約破棄』はランダムでなお且つ比較的可能性の低い方向へ対象者を押し出す魔法なのです。
対象者は悪役令嬢や貴族令嬢のことが多いです。
それでは、発動者はだれでしょう。
王子や貴族令息が多いですが、昨今は商家の跡取りやチャラ男なども発見されています。
共通点は『婚約していること』です。『婚約破棄』は婚約していなければ発動出来ないのです。
対象者もそうではないか?
そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
けれど対象者は婚約しているとは限りません。
発動者に婚約者と間違われたり、たまたま近くにいたから巻き込まれただけという対象者も増えています。
発動者の話を始めたのは、彼らの目的を考えて欲しいからです。
先ほど私は『婚約破棄』は可能性の低い方向へランダムに対象者を押し出す魔法だと申し上げました。
発動者は対象者をどんな方向へ飛ばしたかったのでしょう。この場合は発動者が想定している対象者──婚約者です。
捨てた相手です。幸せになって欲しいとは思っていないでしょう。もちろん幸せになって欲しくて『婚約破棄』する発動者もいるのですが。
ここで、お手持ちのテキストを遡って『追放』魔法のページをお開きください。
古い版のものは『追放』ではなく『パーティ追放』となっておりますのでお気をつけください。
『追放』は神聖属性となっているのをご確認いただけましたでしょうか?
少し意外に思われたかもしれません。
『追放』といえば、『追放』の対象者よりも発動者のほうが不幸になることが多い、人を呪わば穴二つ、の呪い属性ではないの?
そう思われる方も多いでしょうし、これまでの研究はその仮定に基づいて行われてきました。
しかし近年の研究で『追放』は神聖属性だとわかったのです。
『追放』は神が発動者を試すために使わせるものなのです。
発動者の多くが勇者であり、聖女と関係を持っていることにお気づきの方は慧眼と称賛させてください。
そうです。『追放』は神の命を受けた聖女が勇者を導いて発動させるものなのです。
聖女ではなく性女の場合もありますが、問題はありません。
性女は下級悪魔です。悪魔は神の命によって人間を誘惑するものなのです。
対象者は神の眼中にはありませんが、発動者と対抗し試すために力を与えられます。
残念ながらこの神の試練を乗り越えられる者は少なく、多くの発動者が対象者に負けてざまぁされる羽目になります。
それだけ難しく敷居の高い魔法なのです。
では話を『婚約破棄』に戻しましょう。
属性こそ違いますが、『婚約破棄』と『追放』には共通点があることにもうお気づきかと思います。
そうです。どちらも発動者がざまぁされることが多いのです。
では『婚約破棄』も神の試練なのでしょうか?
いいえ、それは違います。
『婚約破棄』の発動者の周囲にも聖女がいることが多いのは皆様ご存じのとおりではありますが、残念ながら『婚約破棄』の発動者には『追放』の発動者である勇者のような使命はないのです。
神に愛されていない、とも言えますね。
実はこの、神に愛されていない、のがポイントなのです。
極論になりますが、『婚約破棄』の発動者は神に愛されたいからこそ『婚約破棄』を発動しているのです。
さて、『婚約破棄』は対象者を可能性の低い方向へランダムに押し出す魔法です。
そして、すべての力がそうであるように、『婚約破棄』にも反動があります。
『婚約破棄』の発動者は、その反動を利用しようとしているのです。
つまり対象者がどこへ飛ぶかなど最初から気にしていないのです。
神に愛されていない発動者は、自分が神に愛されているという可能性の低い方向へ反動で飛ばされることを夢見ているのです。
ただ、成功した発動者はほとんどいません。
なぜ成功しないのでしょうか?
それは『婚約破棄』が神聖属性ではないからです。
『婚約破棄』は大量の魔力を消費する時空属性です。
神に愛された勇者が発動する『追放』は神による試練であるがゆえに、勇者の力をほとんど使うことなく発動出来ます。
ですが『婚約破棄』には契約=婚約が必要となります。
たとえ対象者が婚約者でないとしても、発動者は契約によって婚約者の魔力を共有することで『婚約破棄』を発動することが出来るのです。
とはいえ大部分に婚約者の魔力を使用している以上、『婚約破棄』は婚約者の支配下に入ります。
それが発動者が『婚約破棄』を使っても上手く望む方向に行かない理由、多くの場合婚約者である対象者が可能性の低い──神に愛される幸運な方向へランダムに押し出される理由となっています。
今回の講義の結論として、『婚約破棄』と『追放』は同じような効果=ざまぁをもたらすが、それは副作用的なものであり本来の目的は違うこと、そして属性と消費魔力も大きく違うということを覚えて帰っていただければ幸いです。
ご清聴ありがとうございました。
なお次回は『婚約破棄』後の『追放』発動による消費魔力の節約について講義させていただきます。
なぜ『婚約破棄』には補助魔法『断罪』を併用することが多いのか、皆様も次回までに考えてみてくださいね。