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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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99.会いたい人に会いにいく

3章完結です。よろしくお願いします!

「さて正解だが……さっき君たちが挙げたなかにある」


 ロビンス先生は丸眼鏡の奥から、わたしにイタズラっぽくほほえむと、紙に描かれた魔法陣の文様を指さした。


「まずは文様の解説をしよう。これはヴェンガ、『あなたのそばに』という意味だ。それからラグナシャリアエクシ『距離があろうと、さえぎるものがあろうと』、そしてオヴァル『すべてをこえて』、最後がエレスで結実紋と呼ばれる」


 ロビンス先生は魔法陣の一点をさす。


「結実紋は古代魔法陣でよく使われる。これこそが魔法陣の()で、『願いを叶え具現化する』……つまり魔術式の実行を司る」


 魔法陣から顔を上げたロビンス先生は、わたしをまっすぐに見る。


「ネリス師団長、もうおわかりでしょう。転移魔法陣は『会いたい人に会いにいく』ための、いわば恋唄です」


「恋唄……」


「ええ、ロマンチックでしょう?……だから文様によって、こめる魔素に強弱があるんです。『あなたのそばに』はささやくように、『距離があろうと、さえぎるものがあろうと』は、抑えつつ歌いあげ、『すべてをこえて』は思いをこめる」


 なんと!


「そして魔法陣の()たる結実紋には、有無を言わせず実行する力強さが必要です」


 まるで音楽を奏でるようだ。フォルテッシモな感じなのかな。


 よくできた魔法陣は見た目も美しいから、描くには絵的なセンスがいるとは思っていたけど、音楽的な要素も必要だったとは!


「ネリス師団長、あなたにも判読できる部分……移動先の指定や、移動する対象の範囲といった部分は、この魔法陣の枝葉にあたります。だいじなのは文様にこめられた想い、術者の願いです」


「術者の願い……」


 ロビンス先生がうなずいた。


「子どもは『恋唄』の意味など知らなくとも、耳で聞き覚えた歌を口ずさめます。けれど大人のあなたは意味を知ってこそ、はじめてちゃんと歌えるのです」


 そうか……わたしは意味もわからず、調子っぱずれなメロディーを歌おうとしてたんだ。それじゃ、うまくいかないよね。ロビンス先生の言葉が、説得力を持って響いてくる。


「最初にこの魔法陣を描いた人物は、どれだけの想いをこめて恋人に会いたいと願ったのでしょうね。術者の願いが距離を超えるという奇跡を起こしたのです」


 わたし……今、目から鱗がボロボロ落ちたよ!魔法陣ひとつひとつに目的があり、術者の願いがこめられている!


「わたし……『転移魔法が使えなくちゃ』って焦ってたけれど、それが目的になってしまって、『何のために』が抜けてました……」


「こいうた……?ロビンス先生、誰が作ったんですか?」


「今となっては定かではありません。許されざる恋人同士だったとか、故郷の恋人を思う魔術師だったなど、いくつかの説があります」


 首をかしげて質問したアレクに答えてから、ロビンス先生はにっこりした。


「でもこれだけは確かです。転移魔法の成り立ちは遠いところにいる恋人に、『いますぐ会いにいく』と宣言して紡ぐ、古代のおおらかな愛の唄なんですよ」


 最後に彼はアレクへと手を差しだした。


「このように学べば、魔法陣ひとつにも歴史があり、物語があるとわかる。学園できみに会えるのを楽しみにしているよ、アレク・リコリス」


「はい!ロビンス先生!」


 ロビンス先生としっかり握手するアレクの瞳は、もぅキラッキラに輝いている。


 ロビンス先生!わたしも先生について行きたい!わたしも学園通いたい!


 アレクがうらやましいぃ……。


 ロビンス先生が帰ったあと、わたしはヌーメリアとお茶を飲みながら、今日の講義について話し合う。


「はぁ……ロビンス先生……すごかった」


「すばらしいでしょう?魔術学園の初年度って、みな緊張しているんです。一年生に優しく寄り添って、能力を伸ばして下さる……信頼できるかたですよ」


「彼が学園長ならもっといいのに」


「それは……学園内の派閥もあるというか……ロビンス先生は争いごとは好まれませんから」


 たしかに。ねちっこく人の弱みを探ろうとしたダルビス学園長のほうが、性格は悪くても主導権を握りやすいのかも。


「カーター副団長に、あとでちゃんとお礼をいわなきゃ」


 苦手だったカーター副団長が、ちゃんと講義を手配してくれたことも驚きだ。まだ講義をうけた興奮が抜けない。


 『転移魔法の成り立ち』


 『古代文様』


 『意味を持つ符号』


 『恋唄』


 さっき得たばかりの知識が、頭のなかでグルグルと回る。


 じっとしていられなくて、なんども練習した魔法陣の形を頭に思い浮かべ、わたしは魔素を少し引きだした。


 転移陣を描くことより、その目的を意識する。するとそれまで模様にしか見えなかった古代文様が、意味をもつ符号となって、魔法陣を形作って輝きだす。


(中庭の……コランテトラの葉に……さわる!)


 つぎの瞬間、空中に転移魔法陣が出現し、気づいたら中庭にいた。


「ネリア!できましたね!」


「すごいよ、ネリア!」


 師団長室の窓から、ヌーメリアとアレクが笑顔で手を振っている。


 わたしは枝に手を伸ばして、日に透ける葉脈にそっとふれ、それからヌーメリアに手を振りかえした。


 難しいことを考えなくていい。


『会いたい人に会いにいく』


 目的さえ合っていれば、あとの細かい設定は枝葉のようなもの。


 会いたい人に会いにいく。


 そう思った瞬間、わたしの前に黄昏色の瞳と、整った美しい顔があらわれる。


 興奮のあまり、わたしは彼にまくしたてた。


「レオポルド!わたしできた!転移魔法できたよ!すごかったよ!魔術学園のロビンス先生に教えてもらったの!」


 わたしの顔を凝視したまま、レオポルドはしばらく無言だったけれど、やがて絞りだすように声をだした。


「……そのようだな……」


「あっ!お仕事の邪魔しちゃったね!それじゃ戻るから!こんど長距離のも教えてね!」


「ああ……わかった」


 彼は静かに返事をする。


(変なの……いつもだったらもっと文句言いそうなのに……まぁ、いいか)


 転移魔法!


 使えるようになった!


 きゃっほーい!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 きたときと同じように一瞬で転移した娘を、塔にいたレオポルドたちは見送って、しばらくぼうぜんとしていた。


 彼の周囲にいた人間が徐々に我に返る。


「師団長……今のかわいらしい女性はもしかして……」


「あのかた、塔の魔法結界……粉々に砕いて跳んできましたよね?」


「これ、結界を張りなおすのに半日はかかりますよ?いとも簡単に、一瞬で壊してくれましたけど……」


 メイナード・バルマ副団長とマリス女史がざわざわとすれば、無言で彼女を見送っていたレオポルドが、うめくようにつぶやく。


「しまった……」


「師団長?」


 魔術師団長であり、〝銀の魔術師〟とも呼ばれる男は、眉間にぐっと深いシワを寄せ、流れるような銀の髪をかきあげると、さらにうめいた。


「あいつが転移魔法を覚えたら……さらに厄介だということを考えていなかった。誰があいつを抑えるんだ?」


 メイナードとマリス女史は互いに顔を見合わせた。


「それは、まぁ……」


「王都三師団は互いが抑止力ですから……」


 そう言って、ふたりは再び彼を見る。


「……私か……」


 レオポルドは頭痛でもしたかのように目をつむり、こめかみを手で押さえると、盛大なため息を吐いた。

誤字報告でご指摘のありました、『瞳を閉じ』は『瞼を閉じ』ではないかというご指摘ですが、実際にはよく使われる表現ですが、違和感を覚えるかたもおられたということで。

最終的に『目をつむり』にかえさせて頂きました。(2021年7月11日改稿)

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― 新着の感想 ―
弾丸娘は空を裂く…!! 彼女の前に壁は無く、彼女が通った場所が道となる。 魔的暴風災害はやがて王都を呑み込み、国中の魔力インフラを破壊するであろう…!! おお…! 竜王国、終焉の時である…!!! い…
[良い点] わーーー!!ロビンス先生!!すごい良い先生ですね!!! なんか、私も教えてもらいたくなります!!
[一言] 以前に更新された部分なので見ていらっしゃるかは分かりませんが… 「瞳を閉じて」は間違いではないですよ 瞳には二つの意味がありまして、1瞳孔2目全体です。 2は一部を指して全体を表す提喩という…
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