98.ロビンス先生に教わろう
よろしくお願いします!
ダルビス学園長とカーター副団長は、夜になってようやく救出された。
ふたりからのエンツですぐに無事は確認できたものの、居場所の特定に時間がかかったらしい。
思ったより遠くに飛ばされた彼らは、シャングリラ郊外のヴェルヤンシャ山の頂上近くで、木のてっぺんにクリスマスツリーの星みたいに引っかかっていたという。
学園長が渾身の力で飛ばした使い魔の〝羽リス〟を捜索隊が見つけ、世界が暗闇に落ちた夜になってから、樹上から必死に閃光魔法を空へ打ち上げるふたりを回収したそうだ。
それを聞いたわたしは、ツリーのオーナメントを思いだした。サンタ人形を飾るの、ワクワクするよね!
光を打ち上げる、紺のローブを着た学園長と白いローブの副団長……想像すると絵的にはかわいい。
なお救出されたダルビス学園長は、「おのれっ!おぼえていろ、あのエセ錬金術師め!」とベッドで叫んでいるそうだ。
おかしい。わたしはちゃんと礼儀正しく、にこやかに学園長とお話しできたはずだ。
魔法陣に乗って魔力を流したら、学園長と副団長がお空のむこうに飛んでいくなんて誰も思わない。
不可抗力だ。
助けられたときにやつれきっていたカーター副団長も、今日は出勤してこない。
教えてくれるはずだった転移魔法はどうなるのかと思ったら、彼はちゃんとロビンス先生を手配していて、アレクとふたりで教えてもらうことになっていた。
うわぁ、副団長ありがとう!飛ばしちゃって、ほんとゴメン!
学園の授業を終えて、ロビンス先生は放課後に研究棟へやってきた。
「こんにちはネリス師団長、学園長も副団長も無事に救出されてよかったですねぇ」
「ロビンス先生、いらっしゃい!きのうはお騒がせしました……あとで修理代とか請求されますよね」
丸眼鏡に口ひげのロビンス先生は、きのうと同じように穏やかな笑顔を見せる。
「いえいえ、ご心配なさらず。壁や窓をふっとばす生徒は毎年おりまして、修復の魔法陣が校舎に設置されています。一週間もあれば窓も元通りになりますよ」
「そうなんですか?」
「まぁ、一緒に飛んでいった教壇は、しばらく戻るのに時間がかかるかもしれません。じょうぶなマホウガニー製ですから、そのうち自分で横歩きして帰ってきますよ」
「教壇は自分で歩いて帰ってくるんですか?」
「ええ、教壇だけじゃなく生徒たちの机や椅子も、クラス替えでは歩いて移動します」
「生徒たちが自分で持って移動させたりとかは……?」
ロビンス先生はキョトンとした。
「え?自分で歩くものをなぜわざわざ持つんです?かわいいから抱き上げたいとか?」
「そういうことでは……すみません、なんでもないです」
自分で歩いてくれるなら、わたしも学校の掃除当番が楽だったのに!
ロビンス先生は、すまなそうに眉を下げる。
「ですが昨日はあの騒ぎで私も動揺してしまい、ネリス師団長が魔法陣に乗られたときの記録を、すっかり忘れておりました」
「そんな……それどころじゃなかったですし」
「ネリス師団長は攻撃魔法は使われないのですよね。なのにあれほどの光と風圧……あなたの魔力は稀有なものだといえるでしょう」
「はぁ……」
「もっと詳しく調べるべきかもしれませんが、私は教育者であって研究者ではない。子ども用の魔法陣ぐらいしか描けませんからね。またあんな騒ぎになると困りますし」
ロビンス先生はそう言って、わたしに丸眼鏡の奥からウィンクする。
あ、もしかして、わたしがイヤがってるの……わかってくれてる?
「それでは、今日は転移魔法をお教えするのでしたね。アレク・リコリス君も呼んでもらえますか?」
ソラに呼んできてもらったアレクとふたりで、いままでやっていた転移魔法の練習をロビンス先生に見せた。
アレクは師団長室→中庭への転移を、わたしは魔法陣を描こうとして、うまく完成形が描けずにつまづいているところを見てもらう。
「ふむ、わかりました」
ロビンス先生はわたしたちの練習を、しばらく観察してからうなずく。
「アレク君はその調子で何回も練習をして、少しずつ行ける場所や距離を増やそう。ただし街中で不用意に使ってはいけない。とつぜん人が現れたら、みんなびっくりするからね」
「はい、ロビンス先生!」
「さて、では次にネリス師団長ですが……あなたはもう大人です」
「はい……」
大人になってからだと、習得はやはり難しいのだろうか。これはもぅ、壊滅的に無理と言われるかもしれない。
ロビンス先生は腰のうしろで手を組み、ゆっくりと歩きだす。
「なので転移魔法の成り立ちから、ご説明したほうがよいでしょう」
「転移魔法の成り立ち?」
ロビンス先生は師団長室の机に置いてある、紙に練習で描いた転移魔法陣を取りあげた。わたしたちにも見えるようにそれを掲げ、にっこりと笑う。
「とてもきれいに描けています」
「それはそうなんですけど……」
紙になんども描いたから、魔法陣の形だけは覚えた。
「ですが、転移魔法陣に記された符号の意味を、ネリス師団長はご存知ないようだ。これらはただの模様ではありません。今は使われていない〝古代文様〟なのです」
「古代文様?」
「ええ、文字とは違いますが、それ自体が意味をもつ模様です」
「てっきりデザイン的なものかと……」
「転移魔法陣は長い年月をかけて磨かれた、とてもきれいな完成形の魔法陣です。こうして紙に記されたものを眺めても、本当にシンプルで美しい。私が作る魔法陣も、こうありたいものです」
ロビンス先生はアゴに手をやり、見惚れるように紙に描かれた魔法陣をみつめた。
「さて、話を戻しましょう。それぞれの古代文様には意味がある、というところまで話しましたね?アレク君も聞いていたね?」
「はい、ロビンス先生」
「よろしい。では、この転移魔法陣を最初に使った人物は、どういう目的でこれを描いたと思う?」
「ええと、離れた場所に移動するため」
「うん、そうだね。ではその目的だ。なんのために離れた場所に行きたかったのか。アレク君はどう思う?自由に答えてごらん」
アレクは真剣に考えこむと、首をひねる。
「……買いもの?」
「他には何か思いつくかね?」
「遊びにいく。それから、ええと……学校にいく」
ロビンス先生はにっこり笑い、わたしにも聞いてきた。
「ネリス師団長も、魔法陣を描いた人物の目的を考えて下さい」
「そうですね……家に帰る」
「ほうほう、それから?」
「会いたい人に会いにいく……」
「いいですね、もっとでるかな?」
ロビンス先生は、わたしたちにいくつか答えさせたあと、にっこりと笑った。
「ふたりともすばらしい!たくさんでてきたね!たいしたものだ!そう、魔法にはすべて目的がある。それがわかって魔術を使える君たちは、いい魔法使いになりそうだ」
ロビンス先生!もぅ先生について行きたい!アレクなんかもぅ、瞳がキラッキラだ。
ありがとうございました!
誤字報告でご指摘があった『つまづく→つまずく』ですが、もともとの漢字は『爪突く(つまづく)』です。『躓く』だと(つまずく)が正解なのですが、『つまづく』も間違いではない……と考えております。









