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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第三章 ネリアと王都の錬金術師たち

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91.準備を始めよう

よろしくお願いします!

 オドゥは腕を伸ばして、ユーリの頭をグリグリする。


「うーん、ユーリは大人だし?弟扱いなんてうれしくないだろうけど、ついかまっちゃうんだよねぇ。だってかわいいし」


「ちょっ、オドゥ!やめてくださいっ!」


 本気でイヤがるユーリにかまわず、オドゥは眼鏡の奥で楽しそうに深緑の目を細めた。うわぁ、悪い人の顔になってる。


「ごめんごめん。ユーリがおっきくなったら、おわびに僕が大人のイケない遊び、いっぱい教えたげるよ」


「オドゥ!殿下に変なこと教えるなっ!」


 あわてるテルジオに、眼鏡のブリッジに指をかけたオドゥが、イタズラっぽい視線を送る。


「じゃあ、テルジオ先輩が教えてあげるわけ?」


「教えるわけないだろっ!イケない大人の遊びなんて!」


 怒鳴り返すテルジオに、オドゥは目を丸くした。


「えぇ?テルジオ先輩、教えられないの?もしかしてやったことない?イケない大人の遊びって、どんなのかわかってる?」


「えっ!」


「どうなんだ、テルジオ」


 オドゥに切り返されて動揺するテルジオに、ユーリまで真顔でたずねる。


「わわわ私のことはっ、かかか関係ないでしょお⁉」


「……知らないんだ」


「……知らないのか」


 白いローブの錬金術師たちは、兄弟のようにほぼ同じセリフを吐く。


「しし知ってますとも!大人の遊びぐらいっ!」


「へー本当?」


「へぇ、そうなのか?」


「なななんでっ!オドゥも殿下も、そういうときは息ピッタリなんですか⁉」


 ダンッ!


 わたしは師団長室の机に、術式の束を音を立てて置くと、低い声をだした。


「ここはどこ?わたしは誰?……そしてあなたたちの仕事はなに?」


 みんな、わたしがいることを忘れてると思うの!


 男って……ほんっとにバカ!!


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 わたしはヴェリガンにエンツを飛ばす。


「テルジオもいるなら、わたしもみんなに相談したいことがあるの。ちょっとヴェリガンを呼ぶね……ヴェリガン、頼んどいたものを師団長室に持ってきてくれる?」


 するとオドゥが反応する。


「なになに?ヴェリガンまで巻きこんで何かやるの?」


「ユーリのチョーカーが外れたときに備えるの」


 テルジオがその言葉に食いついた。


「それは殿下の『呪い』が解けるってことですか⁉」


「うん。わたしはグレンを信じてるから。彼の言葉どおりなら、ユーリのチョーカーはもうすぐ外れるよ」


「……本当に?」


 ノドの奥から絞りだした、テルジオの声はかすれていた。補佐官として王子をそばで見ていた彼は、ずっとつらくて苦しかったのだろう。


「レオポルドに使った術式を、グレンがそのままユーリに使うとは思えない。ちゃんと効果や影響も考えて、改良しているんじゃないかな。契約完了が遅いのはそのせいかも。ユーリ、チョーカーを見せて」


「へぇ……それは僕も興味あるなぁ」


 オドゥが指で眼鏡を押さえると、レンズの奥で深緑の瞳がキラリと光る。ユーリは彼をにらんだけれど、無言でシャツのボタンを外した。


 鈍色のチョーカーがあらわになると、ヘッドにはまる魔石を目にして、テルジオがハッと息を飲んだ。


 魔石の色はくすんだ暗褐色から、鮮やかな血赤に変化していた。


「やっぱり……契約完了に備えてカウントダウンが始まってる」


 わたしが魔石にふれると、内部を魔素が活発に流れているのが感じられた。もうすぐ()がくる。


「外見はまだだけど、体の中ではもう変化が始まりつつある。ユーリもわかったんじゃない?」


「きのう初めて魔石が熱を持ちました。でもまだそれだけですよ」


 瓶をいくつも抱えたヴェリガンが、工房に続く扉から師団長室に入ってくる。


「持って……きた」


 ヴェリガンが大きなテーブルの上に、ゴトゴトと置いた瓶を見て、オドゥが首をかしげた。


「ネリア、これなに?薬?」


「えっとね薬じゃなくて……ユーリの健やかな成長をサポートするために、〝サプリメント〟を作りたいの。いきなり成長期がくるわけだから、タンパク質や鉄分、カルシウムも補わないとね」


「はぁ……」


 部屋にいた全員がきょとんとしている。


「小食なヴェリガンに栄養を与えて、健康な体にするのが目的で研究してたんだけど……」


 最近のヴェリガンはきちんと食事するだけで、こけていたほほも戻り、顔色もだいぶよくなってきた。


「レオポルドから『全身が引き裂かれるほどの痛みで、保健室に担ぎこまれた』って聞いて、成長痛が激しいかもって思ったの。それに体の構成成分を補わないと」


「体の構成成分……つまり、体をバラバラにしたら得られる物質ってこと?」


「う……その表現で合ってるけどさ。オドゥが言うとなんか怖いよ!」


「ポーションじゃダメなんですか?」


「うーん……痛みは和らぐかもしれないけど、魔素よりもまずは物質……骨や筋肉、血液の材料を補充するの」


「それいいね!めっちゃ錬金術っぽいし、使うのはユーリの体だし!」


 興奮して叫ぶオドゥを、テルジオが注意する。


「オドゥ!殿下の体を変なことに使うな!」


「ちょっと、かんちがいしないで!血液や筋肉を作るのはあくまでユーリの体で、わたしがやりたいのはその材料を補給することなの!」


「材料を補給⁉……なにそれ、メモりたい!人体の材料だって⁉」


 変なスイッチが入ったオドゥはほっといて、わたしは瓶の中身をみんなに説明する。


「レバーペーストとか牡蠣エキス、あと深海鮫や亀のエキスも使ってるよ。味がいまいちなんだけど、ユーリにはこれを毎日飲んでもらおうと思って」


「これ、ですか?」


 茶色のどろりとしたペースト入りの瓶を持ち上げたユーリは、顔色がヴェリガンみたいに悪くなる。


「これを毎日……」


「うわぁ、この色と臭い……パパロッチェンを上回るねぇ」


 オドゥも眼鏡のブリッジに指をかけて、瓶をのぞきこむ。救いを求めるように、ユーリはなんとも情けない顔でわたしに訴えた。


「あの、ヴェリガンが昼に飲んでる、コールドプレスジュースでもいいのでは?」


「野菜だけじゃ足りないんだよ。体の成長には動物由来の成分がどうしても必要なの。カルシウムが足りないと骨がもろくなるし、鉄分が足りないと貧血になるの」


「僕も協力して……市場で……選んだ……」


 ゆくゆくはちゃんと、タブレットやカプセルにしてサプリメントを市販したい!


「鉄剤って吐き気を起こすから、フィルムコーティングしないと胃に負担がかかるし、腸で溶ける素材も探さなきゃね。ユーリは貴重なサンプルなんだよ!」


「サンプル……」


 ぼうぜんとするユーリに、わたしは力強い笑顔で言った。


「グレンのしでかしたことだからね、錬金術師団でできるだけフォローをするつもりだよ!」


「だからって、これ……どうみても人間の食べものじゃないですよ」


 抗議するユーリの気持ちもわかる。なにしろまだ試作品だから、瓶の中身はドロドロとして異臭を放っている。


「うん、わたしもそう思う。やっぱ飲みにくいかなぁ?でもユーリだって、弟くんより背が高くなりたいよね?」


 わたしのひとことが決め手になったらしい。ギュッと目をつむったユーリは、あきらめたようにつぶやいた。


「やります」


(やっぱ気にしてたんだ……)


 その場にいた全員が、そう考えたと思う。

ネリアは真面目に考えている。

オドゥは危ないことを考えている。

テルジオはイケないことを考えている。

ユーリはちょっと後悔している。

挿絵(By みてみん)

【2026年2月8日追記】

この部分を書いたとき、なろうのブックマークは300ほどでした。100話手前でドカンと跳ねて日間1位を取り、150話ぐらいで打診を受けましたが……書籍化される時も版元の出版社には「実験です」と言われていたのです。

「売れるかどうかは世に出してみないとわかりません」

次がでる保証はなく、①のナンバリングも5巻を出して初めてつけてもらえました。

5年でコミカライズまでされ、私が一番驚いてます。

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